憧れのCEOは一途女子を愛でる
 週が明けた月曜日、友利百合菜という女性から正午ごろに電話があったと秘書から報告を受けた。
 誰だったかと悩まなくても、香椎さんと友達だと偽ったあの女性だとすぐにわかる。
 俺の名刺にはスマホの番号が書かれていないため会社に電話をしてきたようだ。
 実は今までにも何度か連絡があったみたいだが、秘書が俺に繋ぐことなくうまく対応してくれている。
 用件を聞いても言わずに電話を切るらしいし、おそらく俺個人に興味があって接触したいだけだと思うから、こちらは関わらないようにするだけだ。
 秘書には、もしも向こうが香椎さんの名前を出したとしても取り合うなと伝えてある。

「土曜日、いい波だったぞ。朝陽も来ればよかったのに」

 社長室にやってきた朔也が仕事の話を終えた途端に雑談を始めた。
 サーフィン好きな朔也は身体は筋肉質だけれど、白い歯を覗かせてニカッと笑う顔は出会ったころから変わらず人懐っこい。
 こいつの朗らかな性格に今までどれだけ助けられてきたかわからないくらいだ。

「俺は上流の川辺に行ってのんびりしてたから」

「ひとりで? ああ、おじいさんと?」

「違う」

 小さく首を振りつつ視線を逸らせた俺の態度が不自然だったのか、朔也が少し間を空けて「え?」とわざとらしく聞き返した。

「偶然……そう、偶然に堤防にいるのを見かけたんだ」

「その相手って、香椎さん?」

「落ち込んでる顔をしたままだったから、元気付けたくて……」

 なぜか懸命に弁明をしないといけない気になっていたが、よく考えたらその必要はない。
 悪いことはしていないのだから堂々と認めればいいのだ。それに、朔也に対して隠しごとはしたくない。

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