憧れのCEOは一途女子を愛でる
「元気ならよかったよ。心配してたんだ」

「え?」

「始末書の件で落ち込んでただろ?」

 氷室くんがやわらかい笑みを浮かべて私の顔色をうかがう。
 気遣いができてやさしい人だなと感心しながら「ご心配をおかけしました」と返事をした。

「なぁ、今から飲みに行かないか? 本当は先週の金曜に誘おうと思ってたんだけど、伊地知部長に先を越された」

「私はお酒はあんまり飲めないから……」

「駅の向こう側に新しくできた焼き鳥の店、うまいらしいよ」

 お酒が弱い私が相手では楽しめないだろう。それならほかの同僚も誘って何人かで行ったほうがいい。

「ふたりでだと氷室くんはつまんないでしょ。うちの部署、誰かまだ残ってたよね。声をかけてこようか」

「香椎」

 踵を返してオフィスに戻ろうとしたら、氷室くんが私の手首を掴んで引き留めた。
 行かなくていいという意味なのはわかったけれど、彼の表情は真剣そのもので、不自然にピンと張り詰めていた。

「つまらなくない。飲みに誘ったのだって口実だから」

「口実?」

「俺、香椎に話がある」

 彼はなにか悩みごとを抱えていて私に相談したかったのだと気付いたら、自分の勘の悪さがほとほと嫌になった。
 いつも氷室くんには仕事で助けてもらっているのだから、きちんと彼の話を聞いてあげたい。

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