憧れのCEOは一途女子を愛でる
「いろいろ作戦を練っても香椎に逃げられたら意味がないから……もうここで言う」

「ちょ、ちょっと待って。ここではまずいよ」

 どうして早く話してしまわないと私が逃げると思っているのかはわからないけれど、この場で暴露しようとする氷室くんの腕を引っ張ってロビーの隅に移動した。
 話の内容が会社や仕事に対する不満なのだとしたら、ほかの誰かに聞かれるのはまずい気がしたから、せめて人目につきにくいところでと私なりに気を利かせたのだ。

「ちゃんと聞くよ。逃げたりしない」

「そっか。よかった」

「私たち同期だし、なんでも言って?」

 神妙な面持ちでかしこまる氷室くんの顔を下から見上げると、フイッと視線を逸らされた。
 なぜかそのあとみるみるうちに彼の顔が真っ赤に染まっていく。

「無意識なんだろうけど、そういうことするなよ。調子が狂う」

「ごめんなさい」

 彼がなにか言おうとしていたタイミングで邪魔をしてしまったのかもしれない。
 小さく謝ると、氷室くんは顔をしかめながら右手で口元を覆っていた。

「好きな女から上目遣いなんかされたら心臓がもたないって」

「……え、好き?」

「そう。俺は香椎が好き。いつ告白しようか迷ってた」

 予想外の話の展開にビックリして、口を半開きにしたまま固まってしまった。
 てっきり仕事に関して悩みがあるのだと思っていたけれど、彼がしたかった話というのは私へ気持ちを伝えることだったのだ。

< 111 / 132 >

この作品をシェア

pagetop