憧れのCEOは一途女子を愛でる
 氷室くんとはその後も同期の同僚としてギクシャクせずに接することができている。
 普通に話してくれているのは本当にありがたいし、氷室くんの人間性というか器の大きさを感じた。

 そうして迎えた週末の日曜、夏用の新しい洋服がほしくなった私はひとりでショッピングモールへ出かけた。
 近くにデパートがあるから、最後に地下の食品売り場に寄って夕飯のおかずを買って帰るつもりだ。

 オシャレな洋服がたくさん揃っている店に足を踏み入れると、すぐに綺麗なサテンのスカートに目がいく。
 ベーシックなアイボリー色だが、形が広がりすぎないセミフレアだから私の好みだ。
 手に取って触ってみたところ、ギラギラとした安っぽい光沢はなくて落ち着いた風合いだった。
 自分に似合うかどうかたしかめたくてスタッフの人に試着したいと伝えると、快く試着室に案内してくれた。

「あ、かわいいかも」

 試着室でひとりごとを言いつつ、サイズもピッタリだったので購入を決めた。
 この店はトップスもいろいろと置いてあるし、今度は彩羽を誘って一緒に買いにきてもいいかもしれない。

 心をウキウキと弾ませながらその店を出て、今度は向かいにあったコスメショップの前で立ち止まる。
 新発売のシートパックが大々的に展示されていて、試しに買ってみてもいいなと手に取ってパッケージを眺めていたら、バッグの中でスマホが鳴っているのに気が付いた。その場を離れて画面を確認すると、かけてきたのは母だった。

「もしもし?」

「冴実! やっと出た!」

「ごめん。買い物に夢中だった」

 どうやら母は何度か電話してきていたようだが、先ほどの店のBGMが大きかったのもあって着信にはまったく気付かなかった。
 しかし何度もかけてくるなんて、なにか緊急で買って帰るものでもできたのだろうか。このときはまだ、そんなふうにのん気に構えていた。
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