憧れのCEOは一途女子を愛でる
「どこにいるの?!」

「ショッピングモールの中」

「今から言う病院にすぐに来て。おじいちゃんが碁会所で倒れて、救急車で運ばれたの!」

 母の言葉を聞いて頭が一瞬で真っ白になり、手にしていたスマホをうっかり落としそうになった。
 祖父とは今朝リビングで会ったけれど、そのときは普段通り元気だったのにいったいなにがあったのだろう。

「倒れたって、どうして?」

「急にみぞおちのあたりが差し込むって言って、そのあと吐血したらしいわ」

 口から血を吐いたシーンを想像したら怖くなって、途端に身体がブルブルと震えてきた。祖父のことが心配でたまらない。

「お母さんは病院に着いたから、今から先生に病状を聞いてくる。冴実も早く来てね」

 そう言うが早いか、母は病院の名前を告げて電話を切ってしまった。
 私は聞いた病院名をスマホで検索し、ショッピングモールを出たところに停車していたタクシーに乗り込んだ。

 あらためて確認してみると、母のスマホからは十分おきに着信と【電話に出て】というメッセージが三件ずつ入っていた。
 電話に出られなかったことが悔やまれてならない。すぐに知らせを受けていたら、もっと早く病院に駆けつけられたのに。

 小刻みに震える左手を押さえるように、右手を重ねてギュッと力を込める。
 吐血したと聞いてからずっと身体の震えが止まらない。祖父にもしものことがあったらどうしようと、最悪な考えまで浮かんできてしまった。

 タクシーを降りた私は救急外来用の入口から病院内に入り、通りかかった看護師の女性にあわてながら祖父の居場所を尋ねた。

「落ち着いてくださいね。先ほど救急車で運ばれてきた方なら、今は点滴室にいらっしゃいますよ」

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