憧れのCEOは一途女子を愛でる
「冴実ちゃん、これも縁だよ。朝陽のこと、真剣に考えてみてくれないかな?」

「じいちゃん!」

「お人形みたいにかわいらしい上に、こんなにやさしい女性は滅多におらん」

 辰巳さんが私の手を取って真剣に頼んでくるものだから、私は圧倒されて無言で愛想笑いを浮かべるのが精一杯の状態だ。
 社長もさすがにその言動が行き過ぎていると感じて止めに入っていた。

「俺をわざわざ呼び出したのに、まだ帰らないつもり?」

「倫さんとの勝負がついたらな。もうちょっとかかるから、お前は冴実ちゃんとカフェにでも行ってこい」

 辰巳さんの提案を耳にした私の祖父も、それはいいとばかりに大きくうなずいている。

「冴実、さっき甘いもんが食べたいって言ってたよな? ちょうどいい。朝陽くんと一緒に行ってきたらどうだ?」

「一般社員の私が社長とふたりでなんて恐れ多いよ」

 知らない仲じゃないのだろう? と顔で語っている祖父に対し、間髪入れずに言葉を返した。
 社長は社員全員の顔を覚えてはいないだろう。だからジニアールで働いていると言っても私のことなど知らないかもしれない。
 どこか見覚えのある顔だともしも思ってもらえているのなら、それだけで光栄なくらいだ。

「冴実ちゃん、そんなにかしこまらなくてもいいよ。俺の孫なんだから。もっと気楽に接してよ」

 辰巳さんがそう言って笑いかけてくれるけれど、私はその言葉を鵜呑みにはできない。
 だって目の前にいるのは紛れもなく、私が尊敬してやまない憧れの存在であるジニアールの神谷社長だから。

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