憧れのCEOは一途女子を愛でる
「女の子にナンパされてもついて行ったりしないよ」

「……だよね。五十嵐くんはそういう人じゃない。だから中丸商事の福井常務にも気に入られてるんだもんね」

「……え?」

 福井常務の名前が出た途端、驚いて一瞬歩みを止めてしまった。

 急に俺の恋愛事情を探るような発言をするからおかしいと思ったんだ。
 俺は無言のまま彼女の手首を掴み、ロビーを突っ切って会社の外に出た。

「ちょ、ちょっと五十嵐くん、どうしたの?」

 彼女の大きな瞳が動揺して左右に小刻みに動く。
 俺はまるで浮気がバレたような気持ちになったけれど、なにも悪さはしていないのだから堂々としていればいい。
 福井常務の娘と会食の場で会ったことは、彼女の耳に入れたら不快に感じるかもしれないと思って伏せていただけだ。こっそりと隠れて見合いをしたわけじゃない。
 なのに彼女がなにか部分的に小耳に挟んで誤解しているのだとしたら、きちんと釈明したい。

「もしかして朝陽からなにか聞いた?」

「朝陽くんじゃない。……営業部の部長が話してるのを、少しだけ」

 アイツには口止めをしたから漏らさないだろう。
 口を滑らせたのは、朝陽と一緒に中丸商事へ商談に行った営業部長だった。

「少しって?」

「五十嵐くんが福井常務のお嬢さんと結婚するかも、って話してるのが聞こえてきた」

 朝陽にしても営業部長にしても、そんなふうに話題にするくらいだから、福井常務は相当乗り気で話をしていたのだろうなと想像がついた。
 常務に悪気はないのかもしれないが、俺がいない場で決定事項のように言わないでもらいたい。

「気になる?」

「……私はなにか言える立場じゃないでしょ」

「俺が結婚してもいいの?」

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