憧れのCEOは一途女子を愛でる
 さすがに「いいよ」と即答されたらダメージが大きいなと考えつつ、嫌だと言ってくれと念を送るように彼女の瞳をじっと射貫く。
 しかしこんなにも彼女が不安そうな顔をするのは珍しい。

「しないよね?」

「ずるいよ。必死になって止めなくても、伊地知さんは俺が離れていかないって知ってるもんな」

 俺が表情を緩めると、彼女はいたたまれないとばかりに視線をはずした。

「ずるい自覚はあるよ。私の自分勝手な性格のせいで五十嵐くんを振り回してることも」

 それは違う、と俺は小さく首を横に振った。
 彼女になにか強要されているわけではなく、すべて俺が勝手にしているのだ。だから自分を責めないでほしい。

「五十嵐くんは自分の気持ちを優先せず、いつも私を支えようとしてくれてる。私はあなたの気持ちに気付かないふりをしてずっと曖昧にしてきたんだから、本当にずるい」

「そんなふうに思ってないよ」

「いつか五十嵐くんがこんな私に愛想をつかしそうで怖いの。今さらだけど、好きだからこれから先もずっとそばにいてほしいって言ったら、それはやっぱりワガママかな?」

 ウルウルと涙目になりながら必死で訴える彼女の言葉を聞いた途端、俺は人目もはばからずに彼女をギュッと抱きしめた。
 知らぬ間に彼女を精神的に追い詰めていたのかもしれない。悪いのは俺だ。

「言わせてごめん。フラれるくらいなら、どんな形であってもあなたのそばにいたかった。だから俺もずっと曖昧にしてた」

 拒絶されるのが怖かったんだ。もう顔も見たくない、消えろと万が一宣告されたら、俺は人生で光を失うのも同然だから。
 
千春(ちはる)さん、俺はあなたが好きだ。はっきりと言葉にしてこなかったけど、出会ったころからずっと思い続けてた」

 じっと見つめたまま長年の思いの丈を真剣に打ち明けたら、彼女の瞳からポロリと涙がこぼれた。
 泣かせてしまった。でも、俺に向けてだと考えただけでその涙すら愛おしく感じるなんて、本当にどうしようもなく彼女に溺れている。

< 131 / 132 >

この作品をシェア

pagetop