憧れのCEOは一途女子を愛でる
 会議室に移動したのはこの話をしたかったからだと納得をしてうなずいた。
 会社は組織だから異動はつきものだけれど、部長が交代するとなると部署の雰囲気が一気に変わるだろうと商品部の今後を案じてしまう。

「どちらの部署に行かれるんですか?」

「店舗運営部。私は商品装飾展示技能士一級の資格を持ってるし、元々そっちの仕事が専門なのよ」

 商品装飾展示技能士は、商品のディスプレイや演出に必要な知識と技能に関する検定の一種だ。国家資格で、たしか一級が一番上だったはず。
 伊地知部長がその資格を持っていたなんて知らなかった。

 五年前に伊地知部長をヘッドハンティングしたのは五十嵐専務だと聞いている。社長や専務と同じ大学の出身で三年先輩なのだとか。
 彼女を商品部に配属させたのも専務らしいけれど、我が社は都内に十五店舗を展開しているし、自分の力を存分に発揮できる部署に行きたいと、もしかしたら伊地知部長自身が願い出たのかもしれない。
 企業の世界観やブランドイメージをあらゆる手段で効果的に表現したいのだと、以前に彼女が熱く語っていたのを思い出した。

「香椎さんも一緒に来てほしい」

「え?!」

「店舗運営部は嫌? あなたにはその才能もあると思うけど」

 彼女は美しい指をあご元に当ててフフフと笑みをこぼした。
 キラキラとした瞳で見つめられたけれど、私はどう答えたらいいのかわからなくてしばし無言で考え込む。
 私も入社以来所属していた商品部を離れ、ふたりで店舗運営部へ異動になる……そういう話だ。

「嫌というか、今とは仕事内容が違うので不安です」

「仕事は簡単に言えば店舗アドバイザーかな。他社との差別化もはかりたいし、店舗をより良くするためには大事な役目よ」

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