憧れのCEOは一途女子を愛でる
「これは君が見つけたの?」

「いろいろ勉強していて、偶然に……」

「ストイックだな。伊地知さんが気に入るわけだ」

 何気なくフッと笑った社長の顔に、心臓を打ち抜かれそうになった。
 危ない。至近距離で目にしたわけでもないのに仕事中にうっかり(ほう)けるところだった。

「私、香椎さんにはセンスを感じていて、やる気もあるしすごくいい人材だと思っています」

 伊地知部長がこそばゆくなるような褒め言葉を言ってくれるのでさすがに恥ずかしくなってきた。だけど私を高く評価してもらえているのはとてもうれしい。

「単調な明るさの店舗は、照明を変えてみたらどうかって私も思ってたのよ」

「スポットライトもダクトレールに取り付けたらメリハリが出ていいですよね」

 社長が私と部長の会話を静かに聞き入っている。なにか思案しているようだ。

「照明の件は稟議書さえ出してくれたらあとは好きにしていいよ。その代わり、これからも伊地知さんの右腕としてよろしく頼む」

 部長の顔が一瞬でパッと明るくなったけれど、私は社長や専務の表情を見ながらおろおろするばかりだ。どうやら私の異動もこれで決定になったらしい。

「でも……私がいきなり照明のことを意見してもいいのでしょうか」

「仕事はチームでおこなうものだから良い意見は出し合おう。伊地知さんもいるし、大丈夫」

 社長から見守るようなやさしい眼差しを向けられた私は「よろしくお願いします」と頭を下げた。
 社長に見つめられると自動的に心臓がドキドキするので、整った顔をなかなか直視できないのが自分でももどかしい。

 仕事に関しては新しい部署に移るという不安もあるけれど、逆にワクワクする気持ちも湧いてきた。
 今まで一緒にやってきた伊地知部長が新しい部署でも部長のポジションで指導してくれるらしいから、きっと心配はいらないはずだ。

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