憧れのCEOは一途女子を愛でる
「いつになったら結婚する気になるんだって詰め寄ったら、冴実との縁を大事にしたいと朝陽くんは答えたそうだ」

「どういう意味?」

「お前がいい、ってことじゃないのか」

 驚きすぎて目を見開いたまま固まる私をよそに、祖父は腕組みをして静かに笑っていた。

「ちなみに朝陽くんがそんな発言をしたのは初めてらしい」

「信じられない。だってあの日は私、普段着でスッピンだったし……」

「はは。たしかにな」

 祖父同士が友人という間柄だから、社長は大人の対応としてあいまいに濁しただけではないかと思う。
 私のことをはっきりと拒絶しなかった社長の態度を見て、珍しく乗り気だと辰巳さんが良いように受け取った可能性は大いにある。

「たっちゃん自身が冴実を気に入ってるからなぁ。今日も碁を打ちながら上機嫌だったぞ」

 何度も目にしてきた辰巳さんの穏やかな笑顔が瞬時に脳裏に浮かんだ。
 ガッカリさせたくはないから、少しの期待もしないでほしいのだけれど。それにしても社長の発言の意図がわからない。

「おじいちゃんも賛成なの? 本当に私たちが付き合えばいいって思ってる?」

「そりゃそうだ。朝陽くんみたいな立派な男はなかなかいない。非の打ち所がまったくないからな」

 我ながらバカな質問をしたものだ。恋愛や結婚の相手としてあの社長をダメだと否定する人はまずいないのに。
 誰でもひとつくらいは短所がありそうなものだが、私が知る限り社長には見当たらない。どの部分においてもすべてパーフェクトだ。

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