憧れのCEOは一途女子を愛でる
「まぁでも、焦るとうまくいかなくなるものだからな。たっちゃんにも言っとくよ」

 話を終えた祖父が部屋から出て行くのと同時に、自然と小さく溜め息が漏れた。

 私との縁を大事にしたいだなどと、社長が本当にそう言ったのだろうか。
 そんな発言をすれば、辰巳さんが手放しでよろこぶ姿は容易に想像できるはずだから、聡明な社長が軽はずみなことをするとは考えにくい。
 祖父たちが勝手に盛り上がって話が先に進んでいく前に確認したいところだけれど、私は社長の連絡先を知らないし、直接顔を見る機会もない。


 一ヶ月後、本店を一日だけ臨時休業にして照明設備の工事がおこなわれた。
 実際に店まで足を運んで仕上がりを確認したら予想以上に良くて、店長である吉井(よしい)さんを初め、ほかのスタッフも大満足だった。

「すごく良くなりましたね」

「うん、これだけで雰囲気が全然違う」

 伊地知部長とふたりで天井を見上げて微笑み合う。これでディスプレイの演出の幅が相当広がりそうな気がした。

「続きは明日会社で。私、今日はこのあと用事があるの」

 腕時計で時間を確認しながらそわそわする彼女を見て、私は瞬時にうなずいた。時刻はもう十九時を過ぎている。

「私も写真だけ撮ったらすぐに帰ります」

 吉井店長は倉庫で商品の確認をすると言っていたから、私も仕事が済んだら声をかけて今日は直帰しよう。

「本当にごめんね。お先に」

「大丈夫です。お疲れ様でした」

 おじぎをして伊地知部長を見送ったあと、天井に設置されたライトの写真をアングルを変えて何枚か撮った。

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