憧れのCEOは一途女子を愛でる
 マネキンへの照明の当たり方を確認しつつ、その写真も撮っておこうとスマホを構えていると、裏手からガチャンという音がして心臓が跳ね上がる。
 今のは従業員通用口の扉が閉まる音だ。店長が事務所に戻ったのかもしれないと思ったが、実際にやって来たのは予想外の人物だった。

「あ、いたんだ」

「社長! お疲れ様です」

 スリムな黒系のスーツに身を包んだ社長が事務所の奥から店内に姿を現した。
 今日社長が来るとは聞いていなかったので、私は瞬間的にパニックになりながらもていねいに頭を下げる。

「お疲れ様。ひとり?」

「はい。伊地知部長はつい先ほど帰られました。……社長もおひとりですか?」

「ああ。車で通りかかったら店内に明かりがついてるのが見えたから気になって」

 照明の工事が今日だと社長はきちんと把握していて、気にかけてくれていたのだ。偶然通りかかったわけではないと思う。

「これか。なるほど、良くなったな。伊地知さんから君ががんばってくれてると報告を受けてる」

「私ひとりの成果ではないですけど……ありがとうございます」

 隣に立って天井を見上げながら感想を伝えてくれたのがうれしくて、感動で胸がジーンとしてくる。
 社長から直接労いの言葉をもらえるなんて夢みたいだ。一生懸命仕事をしてきてよかった。

「でもさ、なんでそんなに仕事に夢中なの? 俺の立場でそんなふうに聞くのはおかしいけど」

 否定しているわけではないと前置きしつつ社長が私に問いかけた。仕事にまい進している理由はいったいなんなのか、と。

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