憧れのCEOは一途女子を愛でる
 失恋して落ち込む日が続く中、私は四月から無事に社会人になった。
 たいした取り柄もない私を雇ってくれたジニアールには本当に感謝している。
 そんな気持ちもあって、所属された商品部で毎日懸命に働いていたら、ある日伊地知部長から労いの言葉をもらった。

「仕事はね、うまくいかないときもあるけど、努力して成果が出たら楽しくなるからね」

 自分では無自覚だったけれど、私は時折暗い顔をしていたらしいので、プライベートでなにかあったと部長はきっと勘づいていたのだろう。

 いつまでも失恋を心に留め置くのではなく、前に進まなければいけないのは自分でもわかっている。でもそれができない私は、恋愛から一旦目を背けることにした。
 仕事で褒められると承認欲求が満たされる。恋愛という道を塞いで次第に仕事にまい進するようになり、あっという間に三年が過ぎた。

 ずっと恋愛から遠ざかっているとはいえ、縁がある人とは自然に出会って恋に落ちるはずだ。高望みをしていいなら、次は運命的な出会い方をしたいと、夢みたいなことを時折考える。

 仕事中にふと、社内誌に載っている神谷社長の写真が視界に入った。私にとっては雲の上の人だ。
 社長は本当に綺麗な顔立ちだから、芸能人を見ている感覚で胸がときめく。私はそれだけで充分だった。
 なのに、そんなすごい人と祖父を通じて接点ができてしまったのは、本当に奇跡だとしか思えない。

< 55 / 132 >

この作品をシェア

pagetop