憧れのCEOは一途女子を愛でる
「冴実の元カレ、また恋人と別れたらしいよ」

 仕事が終わったあと、久しぶりに彩羽と食事をしに来たら、どうでもいいけどと前置きをしながら彼女が急に加那太の話題を出した。
 彩羽は加那太の友達と今でも交流があるので、時折彼の情報が自然と耳に入ってくるらしい。

 彩羽が“また”と口にしたのは、加那太と百合菜は社会人になってからすぐに別れたからだ。今の話は、そのあとに出来た恋人のことだろう。
 私は食後に注文したアイスティーの氷をストローでくるくるとかき混ぜながら「ふぅん」と軽く相槌を打った。
 ちなみに私が加那太と会ったのはフレンチレストランで食事をした日が最後で、以降連絡は一度も取っていない。

「今回はなんで別れたの?」

「それが……彼女にほかに好きな人ができて、加那太くんがフラれたみたい」

 百合菜との交際のときも、加那太がフラれたのだと噂で聞いた。
 ふたりになにがあったかは私にわかる由もないけれど、どうやらうまくはいかなかったようだ。

「ざまあみろだよ。冴実を都合のいい女扱いして傷つけたことを私はまだ許してないからね」

「ありがとう。でももう昔の話だし、私も幼かったから」

「草食なふりして肉食だったのよ。ただの女好き。だからって、彼女の友達に手を出すなんて最低だわ。……ああ、百合菜は友達じゃなかったんだっけ」

 彩羽が腹立たしいとばかりに顔をしかめる。
 恋愛は自分ひとりががんばってもダメだと、私は加那太と付き合って思い知った。
 見たくないものに蓋をして気付かないふりをすると、いずれ限界が来ることも。
 あのとき冷静でいられたら、最初から加那太が私に本気ではないと感じ取れていたかもしれないし、二股にも気付けていたかもしれない。

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