憧れのCEOは一途女子を愛でる
「この唐揚げ、衣がカリカリしているからおいしいね。今度家で作ってみようかな」

「香椎って料理が得意なの?」

「いろいろチャレンジして作るのが好きなだけ」

 加那太のために作っていたときは私の腕前もまだ未熟で、パスタやオムライスなど簡単なメニューばかりだったけれど、今ではタンドリーチキンやブイヤベースなど、洒落た料理も作れるようになった。
 
「いいよなぁ、料理上手だとモテるだろ」

「モテないよ。家族以外の誰かに振る舞う機会はないから」

 私が家で料理を作るのは、母に家事を全部押し付けたくないからで、要するに自立のためだ。
 家庭的なアピールをして男性の気を引きたいというあざとい考えは微塵もない。

「食べる係なら俺に任せてくれよ。俺の家のキッチンでよければいつでも使ってくれていいし」

「なんでそうなるのよ」

 氷室くんは酔いが回ってきたのか、いつも以上に饒舌だ。
 私と彼のやり取りを聞いていた伊地知部長がテーブルに頬杖をつきながらクスクスと笑っている。

「あ、そうそう。この件を部長に聞きたかったんです」

 部長に声をかけつつ私にも見える角度で、氷室くんがスマホを操作して画面をこちらに向けた。

「なに?」

「真凛の熱愛報道ですよ。相手の男って、どう見ても神谷社長じゃないですか?」

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