憧れのCEOは一途女子を愛でる
「真実は知らないけど、違う気がする。社長の口から真凛さんの話は聞いたことがないからね」

「部長が言うと説得力がありますよ。社長や専務とは長い付き合いなんですよね?」

 伊地知部長がふたりにとって大学の先輩であることはジニアールでは周知されている。
 愛想笑いをしながら、部長は氷室くんに向かってコクリとうなずいた。

「私は社歴は浅いけど、あのふたりのことは十代のころから知ってる。昔は朝陽くん、五十嵐くん、って呼んでたなぁ。ふたりとも当時からイケメンだった」

 どこか遠い目をしながら、部長が懐かしそうに話してくれた。
 社長と専務が昔から女性に人気だったのはたやすく想像できる。大学ではきっと、キャンパスに存在するだけで騒がれていたに違いない。

「いいなぁ。うらやましいっす! かわいい女の子たちと遊び放題じゃないですか」

「それがね、そうでもないのよ。朝陽くんは綺麗な顔してるからすごくモテてたけど、昔から女性関係はクリーンだしね。だからこそ今回の熱愛報道も違うと思うの。いくら相手がかわいいからって、すぐに熱を上げたりしないよ」

 あんなにかわいい真凛さんですら社長の心に響かないのだとしたら、どんな女性も無理なのではないだろうか。そう考えたら自然と私は眉根を寄せてむずかしい顔になった。
 だけど“いくら相手がかわいいからって”という言い方をしていたので、もしかしたら社長は容姿以外のほうを重視しているのかもしれない。

「もったいない。俺が社長みたいなイケメンに生まれてたら、女の子をとっかえひっかえして遊びまくりますけどね。一日でいいから顔を交換してほしいくらいですよ!」

 腕組みをして力説をする氷室くんを目にして、そんな願望があるのかと思わず笑ってしまう。
 当の本人である社長は、たくさんの女性と遊びまくるようなことはしなさそうだ。

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