憧れのCEOは一途女子を愛でる
「あ、ウソ! 今のは冗談だから。本気じゃないからな!」

 なぜか氷室くんが私に向かって誤解するなとばかりにあわあわと弁解を始めた。遊び人のイメージを持たれたくないのかもしれない。

「別に氷室くんが遊んでてもいいよ。私には関係ないじゃない」

 私が静かな口調で返事をした途端、隣にいた伊地知部長がトントンと軽く机を二回叩き、アハハと大声で笑った。
 そんなにおかしなことを口にしただろうかと驚きながらふたりの様子をうかがっていたら、氷室くんは参ったとばかりにげんなりとした顔で頭を抱えていた。
 彼は酔ったのかもしれないが伊地知部長はアルコールに強いので、お酒のせいで爆笑したわけではないと思う。

「氷室くん、今のカウンターパンチは効いたね」

「部長に笑ってもらえたのが救いです」

「個人的な意見だけど、もっとわかりやすいほうがいいと思うよ。どっちなんだかよくわからない態度が一番困る」

 伊地知部長がジョッキを手にしながらアドバイスらしき言葉を贈っているけれど、私には話の内容がさっぱりわからない。
 氷室くんは若干顔を赤くしつつ納得するように小さくうなずいていた。

「結局、部長はなにについて大笑いしたんですか?」

 素朴な疑問として尋ねてみたが、部長は「いいのいいの。気にしないで」と濁して教えてはもらえなかった。
 視線を氷室くんに移すと「とにかく俺はチャラくないから」と再び力説されたので、首を縦に振っておく。

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