憧れのCEOは一途女子を愛でる
「ごめん、元カレの話はしたくないや」

「いや、俺のほうこそごめん。デリカシーがなさすぎた。でも……香椎は見た目についてはなにも言わないんだな」

 たしかに私はそこまで面食いではないはずだ。
 今までそう思ってきたけれど、なぜだかふと社長の顔が頭に浮かんできて、本当は綺麗な顔のほうが好きかもしれないとそれまでの考えを打ち消した。 

「香椎さんは美人なんだから、イケメンを狙っていこう」

 しばらく隣で黙って聞いていた部長が、冗談めかしながら両手で拳を作って私を激励してくる。

「私は美人ではないですし、イケメンと言われましても……」

「そこそこのレベルじゃなく、どうせならとびきりのイケメン。神谷朝陽、なんてどう?」

 部長は鋭いから私が社長に恋心を抱いていると勘付かれた気がして、思わずゴホゴホとむせかえしてしまった。
 視界の端に見えた氷室くんはというと、ギョッとしながら「そんな提案はしなくていいです」と部長に訴えている。

 社長は誰しもが認めるイケメンだけれど、だからこそ私なんかが簡単に手を伸ばすなんておこがましい。
「さすがに無謀ですよ」とつぶやくと、部長は「そうかな?」と意味深な笑みを浮かべていた。私がシンデレラになれるはずがないのに。

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