憧れのCEOは一途女子を愛でる
 店を出た私はすぐさま伊地知部長に電話を入れ、急いで本社に戻った。
 部長も外出していたのだけれど、私とほぼ同時に帰社したので、あらためて今回の件について詳しく報告をした。

「怪我人が出なくてよかったわね」

「本当にすみませんでした。始末書を書きます」

「始末書は……そうね、そのほうがいいかな。私も書こうか」

 部長は力のない笑みを浮かべて小さく溜め息をついた。
 私がしでかしたことなのに、直属の上司というだけで部長を巻き込んでしまって心が痛い。

「社長からも電話が来たのよ。偶然あの場に居合わせたんだって?」

「はい」

「香椎さんが思い詰めそうだって心配してたわ」

 社長のやさしい笑みを思い浮かべた途端、じわりと目に涙がにじんだ。
 だけど泣いてはダメだ。社会人なのだから、きちんと仕事で挽回しなければ。

「あそこの動線は私も気になっていたし、香椎さんだけの責任じゃないからね」

 部長から思いやりのこもった言葉をもらった私は、意気消沈しながら自分のデスクに戻った。
 するとすぐに氷室くんが私のそばまで来て声をかけてくれた。

「本店は部長と香椎が担当だけど、俺にできることがあったら手伝うよ。なんでも言ってくれ」

「ありがとう」

 氷室くんは本当に気さくだし、この部署では先輩だからに頼りになる。
 私は両手でパンッと自分の頬を軽く叩き、本店の店内写真やレイアウトの図を見ながら対策を考えた。
 気付けばとっくに定時を過ぎていて、ほかの社員が続々と退勤していき、店舗運営部には私と伊地知部長だけになる。

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