憧れのCEOは一途女子を愛でる
「こんなことだと思った」

 部長がお手洗いのために席を外し、私がひとりでパソコンのキーボードを叩いているところに突然社長が現れて、思わず目を見開いた。
 社長はコーヒーショップでテイクアウトしてきたコーヒーを両手に持っていて、ひとつを私のデスクの上にそっと置く。

「お、お疲れ様です! あの……コーヒー……」

「お疲れさま。それは差し入れ。まだ帰っていない気がして」

「お気遣いいただきありがとうございます。今、始末書を書いていました」

 椅子から立ち上がったものの、すぐ隣までやってきた社長に会釈をしたまま顔を上げられないでいた。
 社長はきっといつものようにまっすぐな視線を投げかけてくれているはずだから緊張する。

「伊地知さんもまだいるの?」

 部長のデスクの上が片付いていない様子に気付き、社長がもうひとつのコーヒーをそこへ置いた。

「はい。席を外されてますけど」

「始末書は書かなくていいって伝えたんだけどな」

 その言葉を聞いた私は小刻みに首を横に振った。
 実際にあの場にいた社長がそう判断したのかもしれないが、だからといって甘えるわけにはいかない。伊地知部長もそんな私の気持ちを汲み取ってくれたのだと思う。

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