憧れのCEOは一途女子を愛でる
「反省は忘れちゃいけないけど、落ち込むのは今日で最後にしよう」

「すみません」

「まぁ、そこも香椎さんらしいんだけどね。なんにでも一生懸命で真面目だもの」

 仕事をする上で一生懸命なのは当たり前だから、自分では特に褒められることではないと思っている。
 真面目と言ってくれた部分だって、深く落ち込みすぎるのは欠点のような気がしてならない。

「実は私、あのお客様と知り合いなんです。大学を卒業する直前にいろいろあって……正直に言うと二度と会いたくなかった人だから気持ちが沈んでいました」

「そうだったの」

「それと、彼女は対応してくれた神谷社長に対して興味を示していた気がします。恋愛では奔放な女性なので、自分勝手に社長に近づいて振り回すかもと考えたらすごく嫌で……怖くて……」

 そのあたりは社長からなにも聞いていなかったようで、部長はあご元に手をやりながら静かに耳を傾けてくれた。

「社長のことが心配?」

「……はい」

「あら、素直ね。かわいげのない私とは大違い」

 肩までの髪を耳にかけながらフフフと自虐的に笑う部長に対し、私はうなずけなくて小首をかしげた。

「部長は私みたいに不器用じゃないし、いつもスマートで完璧じゃないですか」

「そうでもないよ。プライベートでは全然ダメ。特に恋愛に関しては」

 思い返してみると、入社以来私は部下としてずっと一緒にいるのに、部長のプライベートについてはあまり知らない。
 独身でひとり暮らしをしていて仕事ひとすじ、あとは……酒豪で和食が好き。そのあたりは知っていても、恋愛事情については聞いたことがない。今は恋人はいないみたいだけれど。

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