憧れのCEOは一途女子を愛でる
「こんな私でも五年前には恋人がいたのよ」

 部長はずいぶんと控えめな言い方をしたが、大人っぽくて素敵な部長を好きになる男性はたくさんいると思う。だから過去に恋人がいたと聞いてもまったく驚かなかった。

「なんであんな人を好きになったのか自分でも不思議なくらいダメな男だった」

「そうなんですか?」

「付き合ってからは私の家によく遊びに来てたんだけど、そのうちお金を貸してほしいって言うようになってね……。最初は一万円、それが三万円になり、五万円に増えていった」

 初めて聞く部長の恋愛話なのに、なんだかこの時点で嫌な予感しかしてこない。私は下唇をギュッと噛みながら真剣に耳を傾けた。

「私もバカでね、言われるがままに何度も貸していたのよ。というか、返してもらってないから貸していたんじゃなくて“渡していた”が正解かな」

「お金の用途は……?」

「仕事を辞めて就活中だから必要だって話だったけど、本当のところはわからない。ほかの女に貢いでたかもしれないよね」

 当時の部長がどれだけ傷ついたかを想像したら、悲しくなって鼻の奥がツンとしてきた。
 どんなに無心されても渡さないほうがいいと、部長も絶対に気付いていたはずだ。だけど断ったら恋人が離れていきそうで怖かったのかもしれない。

「ずっと不安でたまらなかった。この人と私は、お金だけで繋がっている関係なのかなって考えたりしてさ……」

 ケースは違うけれど、見たくないものに蓋をして気付かないふりをしていたあの日の自分と重なった。
 部長もこのとき、純粋な愛情だけで結ばれているわけではないと心のどこかできっとわかっていたのだ。でも認めたくなくて、信じたい気持ちが強かったのだと思う。

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