憧れのCEOは一途女子を愛でる
 話を聞いていたらつらい気持ちが伝染して、胸がいっぱいになった。
 当時の部長は恋人から愛されていると信じていたい反面、冷静に考えれば考えるほど疑う気持ちが湧いていたのかもしれない。
 そして、専務はグラグラとして不安定な部長を放っておけなかったのだろう。
 恋は盲目と言うけれど、光が見えないどころか進む道さえ存在しないような恋愛はやめるように、専務が引導を渡して目を覚まさせたのだ。

「そんなことがあったんですね」

「ね? 笑っちゃうくらい全然ダメでしょ? だから未だに五十嵐くんには頭が上がらないの」

「ちなみに、貸したお金のほうは……?」

 言葉にしたあとで余計な質問だったと気付き、部長に対してすみませんと軽く頭を下げる。すると部長は笑みをたたえながら小さく首を横に振った。

「当然戻ってこない。その件は五十嵐くんも気にしてたんだけど、お金を渡した私も悪いから。もういいの」

 予想通りの答えが返ってきて、どれだけつらい思いをしたのか私にも痛いほど伝わった。
 五年の月日が経っているとはいえ、部長の心は大丈夫だろうかと心配になってしまう。

「そのあとしばらくして、ジニアールに来ないかって誘われたのよ。先輩が変な男に引っかからないように俺が見張ります、だって」

 専務はただ単にやさしいのではなくて、先輩後輩という関係以上に部長を大切に思っているのだ。

「五十嵐くんね、ひどいのよ。仕事に集中してください、とか言って無茶な仕事をたくさん振ってきてね。絶対にドSだわ」

「部長が落ち込む暇もないようにと、専務の思いやりですね」

 部長もそこは当然わかっていて、本気でひどい扱いをされたとは感じていないようだ。笑顔で話しているから、ドSだなどと口にしたのはジョークだろう。
 専務としては失恋を早く忘れて立ち直ってもらいたい、その一心だったはず。

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