憧れのCEOは一途女子を愛でる
 翌日の朝、土曜を迎えて久しぶりに休日だという実感が湧いた。
 仕事が一区切りついたのもあって、今日と明日くらいは仕事から離れて頭を空っぽにするのもいい。
 自室のカーテンを開けるとまぶしいくらい日の光が差していた。心も体もリフレッシュしたくなったので、早めの昼食を取ったあとに散歩に出ようとふと思いつく。

 私は昔から外の空気を吸うのが好きだ。
 海の潮の匂い、川のせせらぎの音、滝から感じるマイナスイオン、霊験あらたかな山の景色、夜空にぽっかりと浮かぶ月……五感の全部で感じたい。
 そのよさをわかっているからこそ、アウトドアを扱うジニアールに就職したいと思ったし、実際に働くことができて幸せだ。

 だけど散歩をするにしても、さすがに山まで行くのは遠い。
 幸い我が家から歩いて行ける距離に大きな川が流れているので、その堤防にあるベンチに座って私はよく河川敷を眺めたりしている。
 子どもがキャッチボールやバドミントンをしていたりと微笑ましい光景が広がっているから気持ちが和むのだ。家を出た私は、今日もそこへ行こうと自然と足が向いた。

 ベンチでぼうっとしていたら、黒と白のコントラストが美しい野鳥が目に止まる。尻尾を上下に動かす仕草がとてもかわいらしい。
 野鳥のわりにはあまり人を怖がらないようで、以前に来たときにスマホで写真を撮ることができた。
 調べたところ、その鳥は“ハクセキレイ”という名前なのだそうだ。
 非常に活発な鳥で、素早く飛び跳ねたりするので見ていて飽きない。
 もっと近くに来てくれないだろうかと願いを込めながら眺めていると、突然左側に人の気配を感じた。

「やっぱりそうだ。見間違いじゃなかった」

 声をかけられたことに驚いて顔を横に向けると、神谷社長が私の隣に腰を下ろすところだった。

「えぇ?! 社長!」

「はは。驚きすぎだろ」

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