憧れのCEOは一途女子を愛でる
 今日は休日だからスーツではなく、社長はグレーの長袖Tシャツにキャメル色のスリムなチノパンというカジュアルな私服姿なのだけれど、当然似合っていてカッコいい。
 いつも完璧で本当に欠点のない男性だなと、つい見惚れてしまいそうになる。

「どこかに出かけていたんですか?」

「車で走ってたらベンチに座る君が見えた気がしたから来てみた。で、こんなところでなにしてるの?」

「私は……ハクセキレイを観察していました」

 視線を前方に戻すと、彼もそれにつられてハクセキレイを見つけたようで、「ああ、あの小さい鳥……」とつぶやいていた。

「たまにはリフレッシュしたくて。ここは気軽に来れるうってつけの場所なんです。のんびりできるから」

 私が両手を上げてストレッチをすると、彼はフフッと余裕のある大人っぽい笑みを浮かべた。

「始末書の件、まだ落ち込んでる?」

 社長からの質問には、少し迷ってから首を横に振る。

「昨夜、伊地知部長にご飯をご馳走になったんですけど、落ち込むのは昨日で最後にすると約束したのでもう大丈夫です」

 始末書には反省の意を示して再発しないよう誓約する意味がある。それを書いたのだから、今後は努力していくのみだ。

 ふとあのときのことを思い出し、百合菜の顔が脳裏に浮かんだ。
 社長に近づくチャンスだとばかりに、無遠慮にあとで何度も電話をかけたりしていないだろうか。勝手にそんな心配をしては自然と気持ちが沈んでいく。 

「大丈夫そうには見えないけどな」

「……え?」

「今から俺と出かけない?」

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