憧れのCEOは一途女子を愛でる
 ポカンとしたまましばし固まっていると「なにかほかに用事があった?」と尋ねられたので、「いえいえ!」と言いつつ大げさに手をブンブンと横に振る。
 これはいったいどういう意味のお誘いだろうかと考えていたら頭の中が混乱してきた。

「あのぅ……出かけるってどこにですか?」

「俺が今から行こうとしてた場所。ここもいいけど、もっとリフレッシュできるよ」

 ベンチからすっくと立ちあがった彼が私を見下ろし、長い腕を伸ばして右手を差し出した。
 恐縮しながらもそっと左手を乗せると、やさしく捕まえるように握られる。

 その瞬間、彼を好きだというこの気持ちは止められないと確信した。
好きになっても不毛だと、ずっとブレーキをかけ続けてきたけれど、それももうできそうにない。

「近くの駐車場に車を停めてあるんだ」

 彼が私の手を引いて歩き出す。もしかしたらベンチに座ったまま眠ってしまい、都合のいい夢を見ているのではないかと疑いそうになるが、これは現実だ。

「広い駐車場が空いててよかったよ。狭いところだと停めにくいから」

 屋外にあるコインパーキングまで歩き、入口のところで清算を済ませながら彼がそう言った。
 そのときは意味がわからなかったけれど、彼がキーを操作し、ピピッという音と共に開錠された車を目にした瞬間、私は驚いて一歩も動けなくなった。

「どうした? ……ああ、心配しなくても乗り心地は悪くない」

 そんな心配をしているわけではなく、今は単純に社長が所有している車なのかどうかが気になっている。

「社長は、いつもこれに乗ってるんですか?」

「まさか。アウトドアを楽しむときだけだ」

「ですよね。私、こんな車に乗せてもらうのは初めてで……」

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