憧れのCEOは一途女子を愛でる
 このあたりと言われてもよくわからないなと思いつつ車窓から景色を眺める。
 空気が澄んでいるせいか山の緑が青々としていてとても清々しい。
 身も心も浄化されそうでうっとりしていたら、穏やかに流れる川が視界に入ってきた。太陽の光を浴びた川面がキラキラとしている。

「うわぁ、綺麗……」

「じいさんと何度か釣りをしに来た場所なんだ」

 河川敷まで乗り入れたところで静かに車が停車した。
 外に出てみるとひんやりした空気が心地よくて、両手を大きく広げて深呼吸をしてみる。
 穴場なのか、遠くのほうに釣り人の姿が見えたけれど、近くには人はいなかった。

「本当に素敵なところですね!」

「気に入った? 連れてきてよかったよ」

「私、自然を満喫するのが大好きなんです」

「俺も」

 好みが合う、とはこういうことなのだと実感して心が弾んでくる。その相手が神谷社長ならなおさらで、ひとつでも多くの共通点があればいいのにと密かに願う自分がいた。

「俺ひとりの予定だったからテントは持ってきてないんだ。オーニングを出そう」

 このキャンピングカーの側面には、サイドオーニングと呼ばれる伸ばしたり閉じたりできる屋根が付いているそうで、彼がクランクハンドルという棒状のアイテムを使って素早く設置してくれた。

「ありがとうございます。すごくキャンプっぽくなりましたね」

「日陰も必要だしね」

 たしかにこれがあると直射日光が防げるので暑さ対策になる。日焼けしたくない女性にもありがたいアイテムだ。
 
「私にもなにか手伝わせてください」

「じゃあ、この椅子を出してくれる?」

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