別れが訪れるその日まで
12 殺伐とした班決め
紫苑君がうちに来た次の日。
私は学校に着いてすぐ寧々ちゃんと瑞穂ちゃんに、紫苑君をハイキングの班に入れても良いか話してみた。
すると。
「良いに決まってるじゃない。自分から誘うだなんて偉い、よくやった!」
「いったいいつの間にそんな話に? え、紫苑君を家に呼んだの? その話、詳しく聞かせて!」
こんな感じですぐにOKをもらって、他の班のメンバーも良いって言ってくれた。
『やっぱり大丈夫だったね。紫苑君はまだかなー?』
お姉ちゃんがキョロキョロしていると、あ、来た。
クラスメイトにおはようって挨拶をしながら、教室に入ってくる紫苑君。
けど、声を掛けようとしたその時。
「紫苑君、今度のハイキング、あたし達の班に入らないー?」
私よりも先に、声を掛けたのは石元さん。
しかも、ハイキングの班って!?
「石元さん。嬉しいけど、実はもう……」
「遠慮しなくていいから。紫苑君はあたし達の班になったって、先生に言ってくるね」
「えっ? ちょ、ちょっと待って!」
えーっ、紫苑君返事してないじゃない!
勝手に話を進める石元さんに紫苑君は慌てて、私とお姉ちゃんも顔を見合わせる。
『まずいよ芹。このままじゃ紫苑君、問答無用で石元さんの班に入れられちゃう。こうしちゃいられない、突撃ー!』
「待ってよ。お姉ちゃんじゃ止められないから」
何せ姿が見えない、触れない、声が聞こえないんだもん。
だけどお姉ちゃん以外にもう一人、石元さんを止めようとする人が。
私と同様、一連のやり取りを見ていた寧々ちゃんが、石元さんの襟首を掴んだ。
「きゃっ!? 何するのよ?」
「ちょっと待ったー。春田君は、私達の班に入るから。だよね、芹」
「う、うん」
すると紫苑君も、すかさず言う。
「先に誘われたんだ。だから申し訳ないけど、今回は芹さん達の班に入るよ」
「はぁ、何それ? 早い者勝ちとかズルくない?」
途端に不機嫌そうに目を細くして、ジロリと睨まれた。
けど、ズルいって。石元さんだってさっき、勝手に話を進めてたじゃない。
「鈴代さん、いっつも紫苑君を一人占めしてるじゃない。ちょっとくらい、こっちに譲ったって良いでしょ」
そんな。むしろ普段学校では石元さんの方が、ベッタリくっついてるのに。
「だいたいさあ、いつも紫苑君に付きまとって、迷惑掛けてるって思わないの?」
「め、迷惑!?」
そんな、迷惑なんて掛けて……ないよね?
するとそんな私を笑うような声が、ぼそぼそと聞こてきた。
「確かに、幼馴染みだか知らないけどさあ」
「鈴代さんじゃあ、春田君とは釣り合わないものね」
クスクス笑う声と冷たい視線を浴びて、恥ずかしさで体中がカッと熱くなる。
うん、分かってたよ。釣り合わないって自覚が、無いわけじゃ無いもの。
けどいざ言われると、やっぱり苦しい。
『あんたねえ、いい加減にしなよ!』
お姉ちゃん抑えて。どのみちお姉ちゃんの声は、皆には届かないから。
だけどそれでも、今にも石元さんに掴み掛かりそうなくらい、顔を真っ赤にして怒ってる。。
まさかとは思うけど、ポルターガイストなんて起こさないよね? お姉ちゃんならあり得るかも!
けど、最悪の事態を想像したその時──
「勝手なこと言わないで、迷惑なんかじゃないから!」
珍しく強い口調で、声を上げたのは紫苑君。
私はビックリして固まっちゃって、お姉ちゃんも石元さんも、遠巻きに笑っていた子達も、息を止めて彼を見る。
「僕は芹さんのこと、迷惑だなんて思ったことないから、勘違いしないで。それとさっき、僕と芹さんとじゃ釣り合わないって聞こえたけど、それはどういうこと?」
怒鳴ったわけじゃないけど、ハッキリとした力強い声。
どういうことって、そんなの地味な私と紫苑君とじゃ格差がありすぎるってことだけど、この状況でそれを口にできる人はいない。
いつもとは違う迫力に、皆黙って下を向いてる。
こんな紫苑君、私も初めて見たかも。
「意見が無いなら、この話はここまで。それとハイキングの班だけど、やっぱり先約だから、芹さん達の班に入るよ。石元さん、いいよね?」
「ま、まあ、しょうがないわね。ゴメンね鈴代さん、変なこと言っちゃって」
「え? う、うん。私は別に、平気だから」
あれ? 意外と素直に謝られて、ちょっとビックリ。
石元さんってひょっとして、話せばわかる人なのかな?
なんて思っていたら、素早く耳元に顔を近づけてきて──
「あんまり調子に乗らないでよね」
──ひぃっ!?
他の人には聞こえなかったみたいだけど、怖いくらい冷たい声に、ゾクッとする。
話せばわかるなんてとんでもない。石元さん、全然許してくれてなかった!
けどその事には私以外誰も、お姉ちゃんすら気づかずに、石元さんも事態を見守っていた人達も、解散していった。
「芹ちゃん、大丈夫だった?」
「まったく、石元さんにも困るわ。迷惑なのはどっちだっての」
「もういいって。それより、心配してくれてありがとう」
最後に釘を刺された事は黙ってたけどナイショにして、寧々ちゃんと瑞穂ちゃんにお礼を言う。
それともう一人。
「紫苑君もありがとう。それとゴメンね」
「どうして芹さんが謝るの? むしろ僕のせいで迷惑掛けたのに」
紫苑君はしょんぼりと俯いたけど、そんなことない。
さっき紫苑君が言ってくれたみたいに、私だって紫苑君のこと、迷惑だなんて思わない。感謝してるんだから。
『何にせよ、ちゃんと収まって良かったよ。これでハイキング楽しめるね』
石元さんには、目をつけられちゃったけどね。
そう言えば昔も、こんなことがあったっけ。
紫苑君と仲が良かったせいで、にらまれたことが……。
私は学校に着いてすぐ寧々ちゃんと瑞穂ちゃんに、紫苑君をハイキングの班に入れても良いか話してみた。
すると。
「良いに決まってるじゃない。自分から誘うだなんて偉い、よくやった!」
「いったいいつの間にそんな話に? え、紫苑君を家に呼んだの? その話、詳しく聞かせて!」
こんな感じですぐにOKをもらって、他の班のメンバーも良いって言ってくれた。
『やっぱり大丈夫だったね。紫苑君はまだかなー?』
お姉ちゃんがキョロキョロしていると、あ、来た。
クラスメイトにおはようって挨拶をしながら、教室に入ってくる紫苑君。
けど、声を掛けようとしたその時。
「紫苑君、今度のハイキング、あたし達の班に入らないー?」
私よりも先に、声を掛けたのは石元さん。
しかも、ハイキングの班って!?
「石元さん。嬉しいけど、実はもう……」
「遠慮しなくていいから。紫苑君はあたし達の班になったって、先生に言ってくるね」
「えっ? ちょ、ちょっと待って!」
えーっ、紫苑君返事してないじゃない!
勝手に話を進める石元さんに紫苑君は慌てて、私とお姉ちゃんも顔を見合わせる。
『まずいよ芹。このままじゃ紫苑君、問答無用で石元さんの班に入れられちゃう。こうしちゃいられない、突撃ー!』
「待ってよ。お姉ちゃんじゃ止められないから」
何せ姿が見えない、触れない、声が聞こえないんだもん。
だけどお姉ちゃん以外にもう一人、石元さんを止めようとする人が。
私と同様、一連のやり取りを見ていた寧々ちゃんが、石元さんの襟首を掴んだ。
「きゃっ!? 何するのよ?」
「ちょっと待ったー。春田君は、私達の班に入るから。だよね、芹」
「う、うん」
すると紫苑君も、すかさず言う。
「先に誘われたんだ。だから申し訳ないけど、今回は芹さん達の班に入るよ」
「はぁ、何それ? 早い者勝ちとかズルくない?」
途端に不機嫌そうに目を細くして、ジロリと睨まれた。
けど、ズルいって。石元さんだってさっき、勝手に話を進めてたじゃない。
「鈴代さん、いっつも紫苑君を一人占めしてるじゃない。ちょっとくらい、こっちに譲ったって良いでしょ」
そんな。むしろ普段学校では石元さんの方が、ベッタリくっついてるのに。
「だいたいさあ、いつも紫苑君に付きまとって、迷惑掛けてるって思わないの?」
「め、迷惑!?」
そんな、迷惑なんて掛けて……ないよね?
するとそんな私を笑うような声が、ぼそぼそと聞こてきた。
「確かに、幼馴染みだか知らないけどさあ」
「鈴代さんじゃあ、春田君とは釣り合わないものね」
クスクス笑う声と冷たい視線を浴びて、恥ずかしさで体中がカッと熱くなる。
うん、分かってたよ。釣り合わないって自覚が、無いわけじゃ無いもの。
けどいざ言われると、やっぱり苦しい。
『あんたねえ、いい加減にしなよ!』
お姉ちゃん抑えて。どのみちお姉ちゃんの声は、皆には届かないから。
だけどそれでも、今にも石元さんに掴み掛かりそうなくらい、顔を真っ赤にして怒ってる。。
まさかとは思うけど、ポルターガイストなんて起こさないよね? お姉ちゃんならあり得るかも!
けど、最悪の事態を想像したその時──
「勝手なこと言わないで、迷惑なんかじゃないから!」
珍しく強い口調で、声を上げたのは紫苑君。
私はビックリして固まっちゃって、お姉ちゃんも石元さんも、遠巻きに笑っていた子達も、息を止めて彼を見る。
「僕は芹さんのこと、迷惑だなんて思ったことないから、勘違いしないで。それとさっき、僕と芹さんとじゃ釣り合わないって聞こえたけど、それはどういうこと?」
怒鳴ったわけじゃないけど、ハッキリとした力強い声。
どういうことって、そんなの地味な私と紫苑君とじゃ格差がありすぎるってことだけど、この状況でそれを口にできる人はいない。
いつもとは違う迫力に、皆黙って下を向いてる。
こんな紫苑君、私も初めて見たかも。
「意見が無いなら、この話はここまで。それとハイキングの班だけど、やっぱり先約だから、芹さん達の班に入るよ。石元さん、いいよね?」
「ま、まあ、しょうがないわね。ゴメンね鈴代さん、変なこと言っちゃって」
「え? う、うん。私は別に、平気だから」
あれ? 意外と素直に謝られて、ちょっとビックリ。
石元さんってひょっとして、話せばわかる人なのかな?
なんて思っていたら、素早く耳元に顔を近づけてきて──
「あんまり調子に乗らないでよね」
──ひぃっ!?
他の人には聞こえなかったみたいだけど、怖いくらい冷たい声に、ゾクッとする。
話せばわかるなんてとんでもない。石元さん、全然許してくれてなかった!
けどその事には私以外誰も、お姉ちゃんすら気づかずに、石元さんも事態を見守っていた人達も、解散していった。
「芹ちゃん、大丈夫だった?」
「まったく、石元さんにも困るわ。迷惑なのはどっちだっての」
「もういいって。それより、心配してくれてありがとう」
最後に釘を刺された事は黙ってたけどナイショにして、寧々ちゃんと瑞穂ちゃんにお礼を言う。
それともう一人。
「紫苑君もありがとう。それとゴメンね」
「どうして芹さんが謝るの? むしろ僕のせいで迷惑掛けたのに」
紫苑君はしょんぼりと俯いたけど、そんなことない。
さっき紫苑君が言ってくれたみたいに、私だって紫苑君のこと、迷惑だなんて思わない。感謝してるんだから。
『何にせよ、ちゃんと収まって良かったよ。これでハイキング楽しめるね』
石元さんには、目をつけられちゃったけどね。
そう言えば昔も、こんなことがあったっけ。
紫苑君と仲が良かったせいで、にらまれたことが……。