別れが訪れるその日まで

25 告白をもう一度【奈沙side】

 あたしがトラックに跳ねられた日のことは、今でもよく覚えている。
 あの日は、紫苑君の誕生日。もうすぐ転校しちゃうと言うこともあって、あたしは芹に告白を急がせていた。
 プレゼントを渡して、好きだって言いなさいって。

 そして迎えた昼休み。
 ちゃんとプレゼントを渡せたか気になって、あたしは教室を出て様子を見に行ってみた。
 そしたら途中で、紫苑君のクラスの女子、遠藤さん達に声をかけられたの。
 そして話の内容は……。

「ねえ奈沙ちゃん。今日は春田君の誕生日だけど、告白したりしないよね? もしそうなら、止めておいた方がいいよ」
「うん。だって春田君言ってたよ。僕が好きなのは奈沙ちゃんじゃなくて、芹ちゃんだって」
「言いにくいんだけどさ。ガサツな奈沙ちゃんよりも、守ってあげたくなる芹ちゃんの方が好きだって」

 まさに寝耳に水。
 突然、紫苑君の好きな人を聞かされて、心臓がトクンと鳴った。

 紫苑君が、芹のことを好き?
 なにさそれ、最高なんだけど!

「それ本当!? 紫苑君が、芹のことを! やったー!」

 この時、小躍りしたくなるくらい嬉しかったのを覚えてる。
 一方遠藤さん達は、そんなあたしをポカンと見つめていた。

「えっ? ちょっと、いいの? 春田君は奈沙ちゃんじゃなくて、芹ちゃんのことが……」
「うんうん、分かってる。あたしの事をガサツって言ってたのはちょっと気になるけど、まあ良いか。教えてくれてありがとー!」

 って、この時は大いに喜んでたわけだけど。
 芹の話だと遠藤さんは芹に、真逆の事を言っていたんだよね。
 紫苑君が好きなのは、あたしの方だって。

 今思えばたぶん遠藤さん達は、あたし達の邪魔をしたかったんだと思う。
 あの頃は紫苑君のことを良いって思う女子が増えてたから、近くにいたあたし達が邪魔だったんだろうなあ。

 石元さんといい、手段を選ばない子は、案外多いからねえ。
 恋する女子って怖い!

 だけど当時のあたしはその事に気づかず、なかなかプレゼントを渡そうとしない芹にイライラしていた。
 せっかく両想いなのに、なにモタモタしてるのって。

 だから強引に渡すよう言ったけど、それは失恋したと思い込んでいた芹の心を、深く傷つけていたんだろうなあ。

 結局、紫苑君は本当に芹のことが好きだったみたいだけど。芹が嘘を教えられたり、あたしが死んじゃったり、想いを伝えられないまま紫苑君が転校したりして。両想いのはずの恋は見事に拗れちゃった。

 だけど、きっとまだやり直せるはず。

『そうだよね、芹』

 東の空が白みはじめた頃、早くに目が覚めたあたしは、ベッドで眠っている妹を覗き込む。

 今日こそあの日できなかった、告白を成功させなさいよ。
 紫苑君の14歳の誕生日で、あたしの命日である、この日に。
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