別れが訪れるその日まで
27 芹の勇気
「やっぱり。変にそわそわしてるから、おかしいと思った」
「誕生日のこと、皆には内緒にしてて、自分だけプレゼント渡すとかズルくない」
「抜け駆けなんて最低。見張ってて正解だったわ」
そんな、別に隠してたわけじゃないのに。
浴びせられる言葉と視線に、身を縮める。
『こいつら、まだ凝りてないの? だいたいあんな事しておいて、誕生日を教えてもらおうって方が図々しいっての』
お姉ちゃんはそう言うけど、当然石元さん達には届かない。
もしかしたら今となっては私に嫌がらせする事事態が、目的になっちゃってるのかも。
「そうだ。その袋を、今すぐ捨てなさいよ。そしたら今回のことは許してあげる」
「そんな!」
まるで良いアイディアを思い付いたように言う石元さん。
きっと首を縦に振らないと、見逃してはくれないだろう。
彼女は平気で、危険な森の中に行かせるくらいの事はするんだから、逆らったら何をされるか分からない。
ここは素直に、言われた通りにするべき?
だけど、だけど……。
「何も言わないってことは、OKってこと? だったらさっさと、それをゴミ箱に……」
「嫌! そんなの、絶対に嫌!」
石元さんの言葉を、遮って言い放った。
3年前の今日、失恋したと思った私は自分の意思で、プレゼントを捨てた。
けど、あんなことはもうしない。今日はちゃんと、紫苑君に渡すんだから!
「あんた、今の話聞いてた? いいからさっさと……」
「もう石元さんの、言いなりになんてならない! 分かったら、そこを退いて!」
返事を待たずに、彼女の横を通り抜ける。
ガツンと言ってやったけど、本当はすごく怖かった。
唇は震えていて、足もガクガク。だけど後悔はしていない。
もう誰かに、好きを邪魔されたくないもの。
『芹、強くなってくれて、お姉ちゃんは嬉しいよ』
泣き真似をしながら、オーバーリアクションを取るお姉ちゃん。
私だって、いつまでも守られてばかりなんて嫌だもん。それに、これから紫苑くんに告白するんだもの。
きっとそれは、石元さんに逆らうよりずっと勇気がいるはず。だったらこんな所で、つまずいてる場合じゃないものね。
だけど、和んでいる場合じゃなかった。立ち去ろうとした私の後ろから、ぬっと手が伸びてきた。
「調子のってるんじゃないよ!」
「あっ、返して!」
伸びてきた手は持っていたプレゼントを掴んで、あっさりと奪われてしまった。
慌てて取り返そうとしたけど、石元さんはすかさず他の子にパスする。
「自分だけプレゼントなんて、ズルいし生意気」
「こんなのに付きまとわれて、春田君だって迷惑よ!」
取り戻そうとする私を時に責め、時にあざ笑いながら、石元さん達は次々とパスを繰り返す。
先生が近くにいたら良かったんだけど、もう遅いせいか、私達以外周りには誰もいない。
嫌だ。こんな形で、邪魔されるなんて……。
『あ・ん・た・ら! いい加減にしろー!』
叫びながら、お姉ちゃんが飛び上がった。
パスされた袋が宙に浮いた瞬間を狙って、まるでバスケのパスカットするみたいにキャッチする。
さ、さすがお姉ちゃん。姿は小学生のままだけど、伊達に紫苑君と一緒にバスケの練習してない。
『芹、パス!』
「う、うん」
お姉ちゃんが投げた袋を、今度は私がキャッチ。良かった、取り返せた。
けど、こんなことして大丈夫なの? 袋に触れてたけど、これもポルターガイストだよね。
幽霊パワーを使うと、疲れちゃうんじゃ?
そしてお姉ちゃんの姿を見ることのできない石元さん達は、あり得ない動きをした袋に目を丸くする。
「今のなに?」
「なんかおかしな動きしたんだけど!?」
プレゼントが私の手に戻ったことより、起きた不可解な現象の方に意識がいってる。
だけど、お姉ちゃんはこれで止まらない。
『石元さん、体借りるよ!』
「はうっ!?」
あ、石元さんに憑依した!
突然ガクンと項垂れた石元さんに、周りの子達は「どうしたの?」と声をかけたけど。
石元さん……ううん、お姉ちゃんは下がっていた頭を上げて、鋭く目を光らせた。
「芹の邪魔をするなー!」
「きゃっ!?」
辺りにいた子達に向かって体当たり。
何人かを巻き込んで地面に倒れ込む。
「いったーい! 円、何するのさ!」
「うるさ──はっ! ち、違うの。なんか体が勝手に──きゃあっ!」
石元さんの言動が、おかしなことになってる。
口では違う違うと言いながら、暴れるのを止めない。
たぶん石元さんとお姉ちゃんの人格がごちゃ混ぜになっているんだろうけど、そうだと分かっててもその様子は異様だった。
私ですらそうなんだから、事情を知らない他の子達は、さぞ不気味に映っただろう。
怒ると言うより気味悪そうな目で、石元さんを見ている。
「ちょっと、見てないで助け──邪魔はさせないんだから!──助けてよ!」
「ま、円、本当にどうしちゃったの!?」
「なんかこれ、ヤバくない?」
うん、かなりマズイ状況。
まるでホラー映画で、悪霊に取り憑かれた人みたい。いや、『まるで』でもないか。
お姉ちゃんは少しの間暴れていたけど、やがて動きを止め、石元さんの中からスポンと抜け出した。
『ふぅ、疲れた。芹、今のうちに行くよ』
「う、うん。」
プレゼントの入った手提げ袋を抱えて、素早く走り去る。
途中、石元さん達が追いかけてこないか心配で振り返ってみたけど、どうやらそれどころじゃないみたい。
もうお姉ちゃんは離れたのにギャーギャー騒いでて、私は胸を撫で下ろしながら、校門を出た。
『ふふっ、上手くいって良かった。何だか悪霊になった気分』
「洒落になってないから! でも、平気なの? 憑依したら、疲れるって言ってなかったっけ?」
『平気平気、これくらいなん……ともっ!?』
変に言葉が途切れたと思ったら、そのままパタンと倒れた。
「お姉ちゃん!?」
慌てて駆け寄ったけど、触れられないから抱き起こす事もできない。
ど、どうしよう。救急車を呼んでも、どうにもならないだろうし。
『こ、こらこら、そんな顔しない。ちょっとフラついただけだから』
よろよろと立ち上がったお姉ちゃんだったけど、心なしか顔色が悪い。
原因はやっぱり、ポルターガイストを起こしたり、憑依したりして、幽霊パワーを使ったから?
プレゼントを取り返すために無理させたせいで、こんなになっちゃったの?
「無理はしないで、どこかで休もう」
『何言ってるの。それより、早く紫苑君を追いかけないと。さっきので余計時間くっちゃったんだから』
「でも……」
『芹、何のためにあたしがあんな事をしたと思ってるの? あんたが今やらなきゃいけないのは、心配することじゃないでしょ!』
じっと目を合わせながら、訴えるように言ってくる。
ああ、お姉ちゃんはいつもこう。一度決めたらとにかく頑固で、誰がなんて言おうと、聞きはしないんだから。
けど、間違ってはいない。
私が今、しなきゃいけないのは……。
「分かった。けどお姉ちゃんもこれ以上、無理しないでね。もし消えちゃったら嫌だもの」
『分かってるって。あたしだって、芹と紫苑君がくっつくまで、成仏できないもの』
お姉ちゃんはニカッと笑って、私達は再び歩き出した。
「誕生日のこと、皆には内緒にしてて、自分だけプレゼント渡すとかズルくない」
「抜け駆けなんて最低。見張ってて正解だったわ」
そんな、別に隠してたわけじゃないのに。
浴びせられる言葉と視線に、身を縮める。
『こいつら、まだ凝りてないの? だいたいあんな事しておいて、誕生日を教えてもらおうって方が図々しいっての』
お姉ちゃんはそう言うけど、当然石元さん達には届かない。
もしかしたら今となっては私に嫌がらせする事事態が、目的になっちゃってるのかも。
「そうだ。その袋を、今すぐ捨てなさいよ。そしたら今回のことは許してあげる」
「そんな!」
まるで良いアイディアを思い付いたように言う石元さん。
きっと首を縦に振らないと、見逃してはくれないだろう。
彼女は平気で、危険な森の中に行かせるくらいの事はするんだから、逆らったら何をされるか分からない。
ここは素直に、言われた通りにするべき?
だけど、だけど……。
「何も言わないってことは、OKってこと? だったらさっさと、それをゴミ箱に……」
「嫌! そんなの、絶対に嫌!」
石元さんの言葉を、遮って言い放った。
3年前の今日、失恋したと思った私は自分の意思で、プレゼントを捨てた。
けど、あんなことはもうしない。今日はちゃんと、紫苑君に渡すんだから!
「あんた、今の話聞いてた? いいからさっさと……」
「もう石元さんの、言いなりになんてならない! 分かったら、そこを退いて!」
返事を待たずに、彼女の横を通り抜ける。
ガツンと言ってやったけど、本当はすごく怖かった。
唇は震えていて、足もガクガク。だけど後悔はしていない。
もう誰かに、好きを邪魔されたくないもの。
『芹、強くなってくれて、お姉ちゃんは嬉しいよ』
泣き真似をしながら、オーバーリアクションを取るお姉ちゃん。
私だって、いつまでも守られてばかりなんて嫌だもん。それに、これから紫苑くんに告白するんだもの。
きっとそれは、石元さんに逆らうよりずっと勇気がいるはず。だったらこんな所で、つまずいてる場合じゃないものね。
だけど、和んでいる場合じゃなかった。立ち去ろうとした私の後ろから、ぬっと手が伸びてきた。
「調子のってるんじゃないよ!」
「あっ、返して!」
伸びてきた手は持っていたプレゼントを掴んで、あっさりと奪われてしまった。
慌てて取り返そうとしたけど、石元さんはすかさず他の子にパスする。
「自分だけプレゼントなんて、ズルいし生意気」
「こんなのに付きまとわれて、春田君だって迷惑よ!」
取り戻そうとする私を時に責め、時にあざ笑いながら、石元さん達は次々とパスを繰り返す。
先生が近くにいたら良かったんだけど、もう遅いせいか、私達以外周りには誰もいない。
嫌だ。こんな形で、邪魔されるなんて……。
『あ・ん・た・ら! いい加減にしろー!』
叫びながら、お姉ちゃんが飛び上がった。
パスされた袋が宙に浮いた瞬間を狙って、まるでバスケのパスカットするみたいにキャッチする。
さ、さすがお姉ちゃん。姿は小学生のままだけど、伊達に紫苑君と一緒にバスケの練習してない。
『芹、パス!』
「う、うん」
お姉ちゃんが投げた袋を、今度は私がキャッチ。良かった、取り返せた。
けど、こんなことして大丈夫なの? 袋に触れてたけど、これもポルターガイストだよね。
幽霊パワーを使うと、疲れちゃうんじゃ?
そしてお姉ちゃんの姿を見ることのできない石元さん達は、あり得ない動きをした袋に目を丸くする。
「今のなに?」
「なんかおかしな動きしたんだけど!?」
プレゼントが私の手に戻ったことより、起きた不可解な現象の方に意識がいってる。
だけど、お姉ちゃんはこれで止まらない。
『石元さん、体借りるよ!』
「はうっ!?」
あ、石元さんに憑依した!
突然ガクンと項垂れた石元さんに、周りの子達は「どうしたの?」と声をかけたけど。
石元さん……ううん、お姉ちゃんは下がっていた頭を上げて、鋭く目を光らせた。
「芹の邪魔をするなー!」
「きゃっ!?」
辺りにいた子達に向かって体当たり。
何人かを巻き込んで地面に倒れ込む。
「いったーい! 円、何するのさ!」
「うるさ──はっ! ち、違うの。なんか体が勝手に──きゃあっ!」
石元さんの言動が、おかしなことになってる。
口では違う違うと言いながら、暴れるのを止めない。
たぶん石元さんとお姉ちゃんの人格がごちゃ混ぜになっているんだろうけど、そうだと分かっててもその様子は異様だった。
私ですらそうなんだから、事情を知らない他の子達は、さぞ不気味に映っただろう。
怒ると言うより気味悪そうな目で、石元さんを見ている。
「ちょっと、見てないで助け──邪魔はさせないんだから!──助けてよ!」
「ま、円、本当にどうしちゃったの!?」
「なんかこれ、ヤバくない?」
うん、かなりマズイ状況。
まるでホラー映画で、悪霊に取り憑かれた人みたい。いや、『まるで』でもないか。
お姉ちゃんは少しの間暴れていたけど、やがて動きを止め、石元さんの中からスポンと抜け出した。
『ふぅ、疲れた。芹、今のうちに行くよ』
「う、うん。」
プレゼントの入った手提げ袋を抱えて、素早く走り去る。
途中、石元さん達が追いかけてこないか心配で振り返ってみたけど、どうやらそれどころじゃないみたい。
もうお姉ちゃんは離れたのにギャーギャー騒いでて、私は胸を撫で下ろしながら、校門を出た。
『ふふっ、上手くいって良かった。何だか悪霊になった気分』
「洒落になってないから! でも、平気なの? 憑依したら、疲れるって言ってなかったっけ?」
『平気平気、これくらいなん……ともっ!?』
変に言葉が途切れたと思ったら、そのままパタンと倒れた。
「お姉ちゃん!?」
慌てて駆け寄ったけど、触れられないから抱き起こす事もできない。
ど、どうしよう。救急車を呼んでも、どうにもならないだろうし。
『こ、こらこら、そんな顔しない。ちょっとフラついただけだから』
よろよろと立ち上がったお姉ちゃんだったけど、心なしか顔色が悪い。
原因はやっぱり、ポルターガイストを起こしたり、憑依したりして、幽霊パワーを使ったから?
プレゼントを取り返すために無理させたせいで、こんなになっちゃったの?
「無理はしないで、どこかで休もう」
『何言ってるの。それより、早く紫苑君を追いかけないと。さっきので余計時間くっちゃったんだから』
「でも……」
『芹、何のためにあたしがあんな事をしたと思ってるの? あんたが今やらなきゃいけないのは、心配することじゃないでしょ!』
じっと目を合わせながら、訴えるように言ってくる。
ああ、お姉ちゃんはいつもこう。一度決めたらとにかく頑固で、誰がなんて言おうと、聞きはしないんだから。
けど、間違ってはいない。
私が今、しなきゃいけないのは……。
「分かった。けどお姉ちゃんもこれ以上、無理しないでね。もし消えちゃったら嫌だもの」
『分かってるって。あたしだって、芹と紫苑君がくっつくまで、成仏できないもの』
お姉ちゃんはニカッと笑って、私達は再び歩き出した。