別れが訪れるその日まで

エピローグ・別れが訪れるその日まで

 すっかり帰るのが遅くなっちゃった。
 辺りはもう薄暗く、空には星が輝いている。

 あれから紫苑君と少し話しをした後、彼に送ってもらって、今は二人で私の家の前にいる。

「じゃあね紫苑君。また明日学校で」
「うん。また、話を聞かせてね。芹さんのことや、奈沙さんのことを」

 もちろん。

 お姉ちゃんが化けて出て、ついさっきまで側にいたという話を、紫苑君は笑わず信じてくれた。
 だけど今日だけじゃとても話しきれないから、続きはまた明日だ。

「全部話すのに、どれくらい掛かるかなあ。まだまだ話したいこと、たくさんあるもの」
「平気だよ。時間はたっぷりあるんだから」
「うん、そうだね」

 二人でニッコリ笑いあって、手を振ってサヨナラ。
 これって結構、カレカノっぽいかも。

 それから家に入って、ママにただいまと言った後、仏壇に行って手を合わせた。
 お姉ちゃんの遺影が、飾られた仏壇に。

 お姉ちゃん、ありがとう。おかげで紫苑君と、両想いになれたよ。

 写真の中のお姉ちゃんは、さっきまでと変わらない姿で、大きく口を開けて笑っている。
 お姉ちゃんがいなくなったのは、やっぱり寂しい。けど、我慢しなくちゃ。
 私、これからもっと強くなるよ。だからお姉ちゃんも、天国から見守っていて……。

『おっ帰りー! おっめでとー!』
「ニャッニャニャーン!」

 ────へ? う、うわああっ!?

 お参りを終えて立ち上がろうとした時、突然聞こえてきた声に腰を抜かした。

 だって、だって部屋に入ってきたのは……。

「お、お、お姉ちゃん!? なんでいるの!?」

 そこにいたのは、消えてしまったはずのお姉ちゃん。と、ボタ。
 成仏したはずなのに、さも当たり前のようにボタと一緒に立っていて、キョトンとした様子で目をパチクリ。

『なんでって、そりゃあ自分の家だもん。いるに決まってるじゃん』
「そ、そうじゃなくて、成仏したんじゃなかったの? 私と紫苑君とくっつけるために化けて出たって言ってじゃない。なのにどうしてまだいるの?」
「あれ、そんなこと言ったっけ?」

 言ったことも忘れてるの!

『うーん、そういえば言ったような……。でもこうして成仏してないってことは、きっと違ったんだね』
「何よそれ! それじゃあどうしてさっき、思い残すことは無いって言ってたのは何?」
『何言ってるの。思い残すことがないからって、成仏しなきゃいけない決まりなんて無いじゃん』

そうだっけ⁉ 幽霊って、未練があるから化けて出るんじゃなかったっけ⁉

「じゃ、じゃあ。急にいなくなったのはなぜ!?」
『そりゃあもちろん、気を使って二人きりにしてあげたんだよ。せっかくカレカノになったのに、邪魔するほど野暮じゃないもん。ねーボター』
「ニャ~」

 のんきに笑うお姉ちゃん。
 それじゃあ消えたって思ったのは、全部私の勘違い?
 なら、流した涙はなんだったの!? 
 紫苑君には、お姉ちゃんは成仏したって言っちゃってるのに、明日なんて話せば良いの!?

『そ・れ・よ・り! 紫苑君とは、あの後どうなったの? 詳しく聞かせてよー♡』

 猫なで声で聞いてくるお姉ちゃん。
 それを見てると、色んな感情。主に怒りが、沸々と沸いてくるんだけど。

「バ、バ……」
『ん?』
「バカー! 人の気も知らないでー! 私の涙返してよー!」
『ちょっ、ちょっと、いきなりなんのこと? ポカポカ殴らないでよー』

 殴ったってすり抜けちゃうんだけど、お姉ちゃんは手で頭を押さえて。ボタは突然始まった姉妹ケンカに「ニャニャ?」っと困惑している。

『ひょっとして、あたしが消えたって思ってた? バカだねえ、せっかく芹と紫苑君がくっついたのに、成仏なんてできないよ。もっとラブラブになれるよう、お姉ちゃんがサポートを……』
「うるさーい! お姉ちゃんのそういう所、本当に大嫌い!」
『ええーっ!?』

 確かにこの様子だと、当分成仏しそうにない。

 きっと別れが訪れるその日まで、お姉ちゃんは私を、振り回していくんだろうなあ。
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