別れが訪れるその日まで
4 見覚えのある転校生
10月に入って、だいぶ涼しくなってきた月曜日の朝。
私はホームルームが始まるまでの時間を、瑞穂ちゃん寧々ちゃんと一緒に過ごしていた。
二人は中学に入ってからできた友達で、一年生の頃から仲良し。
昨夜見たテレビの話や、推しの芸能人の話をしていたけど、そこにいつものようにフラッといなくなってたお姉ちゃんが、慌てた様子で戻ってきた。
『芹、大ニュース。なんとこのクラスに、転校生がくるんだって』
「転校生?」
って、いけない。つい返事をしちゃった。
するとお姉ちゃんの声をが聞こえない瑞穂ちゃんと寧々ちゃんは、不思議そうに首をかしげる。
「芹ちゃん、転校生って?」
「え、ええと。第六感がピーンときて、なんとなーく転校生が来るんじゃないかなーって気がしたんだよ」
苦しい言い訳だけど、お姉ちゃんのことは秘密だから仕方がない。
二人には双子のお姉ちゃんがいたって話はしたことあるけど、幽霊になって今も近くにいるのは内緒にしてる。
だって言っても信じてもらえるか分からないし、もしかしたら変な子だって思われるかもしれないしね。
転校生と聞いて、寧々ちゃんは半信半疑な様子だけど。普段私はお姉ちゃんの力を借りて予言しまくってるせいか、疑いきれてもいないみたい。
「転校生ねえ。もし本当に当たってたら、芹の勘はいよいよ超能力レベルね。そのうちテレビに出られるかもよ」
『お、テレビかあ。あたしがいれば芹、超能力少女としてデビューできるかもよ』
寧々ちゃんの冗談に、すかさず乗っかるお姉ちゃん。
コラコラ。幽霊を悪用しないって、この前話したばかりじゃない。
「ねえねえ、転校生って、女子? それとも男子?」
「えーと、それは……」
『ふふふー、それは秘密ー。見てのお楽しみだよー』
目を向けた私に、ニヤニヤ笑って返すお姉ちゃん。
だけどその様子に、違和感を覚える。
おかしいなあ。この口ぶりだとどっちか知ってるみたいだけど、普段のお姉ちゃんなら隠したりしない。
むしろ性別までちゃんと予言させて、瑞穂ちゃんや寧々ちゃんの驚く顔を見ようとするはずなのに。
けど、黙っていた理由は、すぐに分かる事となる。
チャイムが鳴って担任の先生が教室に入ってくると、寧々ちゃんは離れた席へ、瑞穂ちゃんは私の隣の席へとつく。
私達の担任は、四十代後半の男の先生。いつもと同じ朝の挨拶をすませると、教室を見渡して言った。
「えー。今日からこのクラスに、転校生がやって来る」
途端に静かだった教室がざわつき出して「男子? 女子?」、「可愛い子かなー」等の声があちこちから聞こえてくる。
そして私の隣の席に座っていた瑞穂ちゃんも、驚きの声をあげた。
「すごい、本当に当たった。芹ちゃん、本物の超能力者なんじゃないの?」
「あ、あはは。どうかなー?」
超能力と言うより、霊能力なんだけどね。
一方先生はパンパンと手を叩いて騒ぐ生徒を落ち着かせると、教室のドアを開いた。
「春田、入って来い」
「はい」
先生に呼ばれて教室に入って来たのは、さらさらとしたストレートヘアの、穏やかな雰囲気の男子生徒。
身長は、160センチ半ばくらいかな。幼さの残る、可愛い気のある顔立ちで、教室のあちこちから「可愛い」「イケメン」と言った声が聞こえてくる。
そして隣の席の瑞穂ちゃんはと言うと。
「女装させたら似合いそう」
さらっととんでもないことを言っていた。
さては瑞穂ちゃん、変な漫画を読んだな。
漫画好きの瑞穂ちゃんは時々読んだ本の影響を受けて、ぶっ飛んだ事を言うのだ。
けど、確かに可愛くて綺麗な顔……って、あれ?
あの人の顔、どこかで見たような……。
すると彼は黒板に名前を書いて、読み上げた。
「春田紫苑です。昔この近くに住んでいましたけど、戻ってきました。皆さんどうか、よろしくお願いします」
礼儀正しい挨拶。そしてまるで天使のような爽やかな笑顔に、女子の歓声が上がる。
そんな中私も、目を見開いて彼を見る。
見覚えのある顔。懐かしい雰囲気。そして、春田紫苑と言う名前。
まさか、まさか彼は……。
『どう、ビックリした? 紫苑君が帰ってきたんだよ』
「──っ!?」
や、やっぱり!
と言うかお姉ちゃん、知ってて黙ってたねー!
『ふふふっ、良かったね芹。王子様だよ、王子様』
隣でニマニマと笑うお姉ちゃんに目をやりつつも、教壇に立つ彼の事が気になって、胸がドキドキする。
前よりも背がぐんと伸びて、格好よくなってるけど、間違いない。
紫苑君……春田紫苑君。
何を隠そう、彼は私とお姉ちゃんの幼馴染み。そして私の、初恋の男の子だった。
私はホームルームが始まるまでの時間を、瑞穂ちゃん寧々ちゃんと一緒に過ごしていた。
二人は中学に入ってからできた友達で、一年生の頃から仲良し。
昨夜見たテレビの話や、推しの芸能人の話をしていたけど、そこにいつものようにフラッといなくなってたお姉ちゃんが、慌てた様子で戻ってきた。
『芹、大ニュース。なんとこのクラスに、転校生がくるんだって』
「転校生?」
って、いけない。つい返事をしちゃった。
するとお姉ちゃんの声をが聞こえない瑞穂ちゃんと寧々ちゃんは、不思議そうに首をかしげる。
「芹ちゃん、転校生って?」
「え、ええと。第六感がピーンときて、なんとなーく転校生が来るんじゃないかなーって気がしたんだよ」
苦しい言い訳だけど、お姉ちゃんのことは秘密だから仕方がない。
二人には双子のお姉ちゃんがいたって話はしたことあるけど、幽霊になって今も近くにいるのは内緒にしてる。
だって言っても信じてもらえるか分からないし、もしかしたら変な子だって思われるかもしれないしね。
転校生と聞いて、寧々ちゃんは半信半疑な様子だけど。普段私はお姉ちゃんの力を借りて予言しまくってるせいか、疑いきれてもいないみたい。
「転校生ねえ。もし本当に当たってたら、芹の勘はいよいよ超能力レベルね。そのうちテレビに出られるかもよ」
『お、テレビかあ。あたしがいれば芹、超能力少女としてデビューできるかもよ』
寧々ちゃんの冗談に、すかさず乗っかるお姉ちゃん。
コラコラ。幽霊を悪用しないって、この前話したばかりじゃない。
「ねえねえ、転校生って、女子? それとも男子?」
「えーと、それは……」
『ふふふー、それは秘密ー。見てのお楽しみだよー』
目を向けた私に、ニヤニヤ笑って返すお姉ちゃん。
だけどその様子に、違和感を覚える。
おかしいなあ。この口ぶりだとどっちか知ってるみたいだけど、普段のお姉ちゃんなら隠したりしない。
むしろ性別までちゃんと予言させて、瑞穂ちゃんや寧々ちゃんの驚く顔を見ようとするはずなのに。
けど、黙っていた理由は、すぐに分かる事となる。
チャイムが鳴って担任の先生が教室に入ってくると、寧々ちゃんは離れた席へ、瑞穂ちゃんは私の隣の席へとつく。
私達の担任は、四十代後半の男の先生。いつもと同じ朝の挨拶をすませると、教室を見渡して言った。
「えー。今日からこのクラスに、転校生がやって来る」
途端に静かだった教室がざわつき出して「男子? 女子?」、「可愛い子かなー」等の声があちこちから聞こえてくる。
そして私の隣の席に座っていた瑞穂ちゃんも、驚きの声をあげた。
「すごい、本当に当たった。芹ちゃん、本物の超能力者なんじゃないの?」
「あ、あはは。どうかなー?」
超能力と言うより、霊能力なんだけどね。
一方先生はパンパンと手を叩いて騒ぐ生徒を落ち着かせると、教室のドアを開いた。
「春田、入って来い」
「はい」
先生に呼ばれて教室に入って来たのは、さらさらとしたストレートヘアの、穏やかな雰囲気の男子生徒。
身長は、160センチ半ばくらいかな。幼さの残る、可愛い気のある顔立ちで、教室のあちこちから「可愛い」「イケメン」と言った声が聞こえてくる。
そして隣の席の瑞穂ちゃんはと言うと。
「女装させたら似合いそう」
さらっととんでもないことを言っていた。
さては瑞穂ちゃん、変な漫画を読んだな。
漫画好きの瑞穂ちゃんは時々読んだ本の影響を受けて、ぶっ飛んだ事を言うのだ。
けど、確かに可愛くて綺麗な顔……って、あれ?
あの人の顔、どこかで見たような……。
すると彼は黒板に名前を書いて、読み上げた。
「春田紫苑です。昔この近くに住んでいましたけど、戻ってきました。皆さんどうか、よろしくお願いします」
礼儀正しい挨拶。そしてまるで天使のような爽やかな笑顔に、女子の歓声が上がる。
そんな中私も、目を見開いて彼を見る。
見覚えのある顔。懐かしい雰囲気。そして、春田紫苑と言う名前。
まさか、まさか彼は……。
『どう、ビックリした? 紫苑君が帰ってきたんだよ』
「──っ!?」
や、やっぱり!
と言うかお姉ちゃん、知ってて黙ってたねー!
『ふふふっ、良かったね芹。王子様だよ、王子様』
隣でニマニマと笑うお姉ちゃんに目をやりつつも、教壇に立つ彼の事が気になって、胸がドキドキする。
前よりも背がぐんと伸びて、格好よくなってるけど、間違いない。
紫苑君……春田紫苑君。
何を隠そう、彼は私とお姉ちゃんの幼馴染み。そして私の、初恋の男の子だった。