別れが訪れるその日まで
6 すっかり格差ができちゃった。
あの日の事なんて、紫苑君はもう覚えてないと思うけど。私にとっては忘れられない大切な思い出。
そんな紫苑君が転校して、離れ離れになったのは、お姉ちゃんが事故に遭った少し後のこと。
お姉ちゃんがまだ、幽霊になって現れる前だったから、大切な人といっぺんにサヨナラしなければならなくて、大泣きしたのを覚えてる。
だけど、まさか戻ってくるなんて。
久しぶりに見た紫苑君は、小学生の頃より背が伸びていて、格好よくなっていたけど、穏やかで優しげな雰囲気は相変わらず。
本当はすぐにでも、私のこと覚えてるって、声をかけたかったのだけど。
「ねえねえ、春田君ってどこから来たの?」
「前にこの辺に住んでたって本当?」
休み時間になった途端、始まった転校生への質問タイム。
紫苑君の周りにはバリケードが作られて、とてもあの中に特攻するなんてできない。
それと心なしか、集まっているのは女子が多い気がするんだけど。
「転校早々、すごい人気ね。まあ可愛い顔してるし、仲良くなりたいって気持ちもわかるけど」
「うん。転校生がイケメンって、漫画の中だけじゃなかったんだ」
出遅れた私は紫苑君への接触を諦めて、いつも通り寧々ちゃん瑞穂ちゃんと集まっていた。
「それにしても、まさか本当に転校生が来るなんてね。芹ってばやっぱすごいわ」
「う、うん。自分でもビックリだよ」
なんて返事をしながらも、目はつい紫苑君に向いてしまう。
もしも今、実は彼とは幼馴染みなんだよって言ったら、皆はどんな顔するかな?
だけどそんな、でしゃばるようなマネはできない。だって紫苑君、ビックリするくらい格好良くなってるんだもの。
対して私は地味キャラ。ずいぶんと格差ができちゃってる。
なのに図々しく仲良しアピールしても、きっと馴れ馴れしいって思われちゃうに決まってる。
紫苑君なら大丈夫な気もするけど、問題なのは周りの女子達。
もしもにらまれたらって思うと、怖くて声なんてかけられないよ。
だけどそんな動けずにいる私に、不満を持つ人が。
『せ~り~、どうして会いに行かないのさ~』
ジトーとして目しながら、まるで悪霊みたいなおどろおどろしい声を出すお姉ちゃん。
私は瑞穂ちゃんや寧々ちゃんに聞こえないよう、小声で話しかける。
「しょうがないでしょ。あの中に割って入るなんてできないよ」
『そこは頑張らなきゃ。芹だって本当は、話したいんでしょ』
うっ、それはもちろん。
向こうではどうしてたのとか、元気だったのとか、聞きたい事はたくさんあるもの。
するとお姉ちゃんは、思い付いたみたいに言う。
『そういえばさあ、もしかしたら紫苑君ならあたしのこと、見えないかなあ?』
「何言ってるの、そんなわけ……」
いや、あり得るかも?
私も、ボタだってお姉ちゃんを見ることができるんだし、もしかしたら紫苑君ならって気が、しないでもない。
『よーし、実験してみよう。紫苑くーん!』
教室中に聞こえるような大声。
こんなことをされると悪目立ちしそうで、ヒヤッとしちゃう。
まあ私以外の人には、お姉ちゃんの声は聞こえないんだけどね。
そしてどうやらそれは、紫苑君も同じだったみたい。
大きな声で名前を呼ばれたはずなのに、紫苑君は気づく様子もなく、集まっている人達とお喋りしている。
『反応無しかー。それじゃあ姿は見えるかな?』
お姉ちゃんは紫苑君の前まで行ってピョンピョン跳びはねたけど、またも不発。
もしかしたらって思ったけど、どうやら他の人と同じで、お姉ちゃんのことはわからないみたい。
なんだか残念だなあ。紫苑君なら、もしかしたらって思ったのに。
「せーりー」
「ふぇっ!? な、何寧々ちゃん」
「何じゃないよ。さっきから呼んでるのに、転校生の方ばっかり見て。って、まさか──」
「芹ちゃんひょっとして、春田君のこと……」
揃って目を輝かせる、寧々ちゃんと瑞穂ちゃん。
わー、違う。違うってばー!
「ご、誤解だよ。ただ、本当に勘が当たったからビックリしてたんだってば」
そりゃあ昔は好きだったけど、今の紫苑君と私とじゃ釣り合わない事くらい分かってる。
分不相応な夢は見ないのだ。
だけど言い訳をしながらもう一度紫苑君を見ると、丁度向こうもこっちに頭を向けてきていて……パチッと目が合った。
途端に、トクンと心臓が高鳴る。
すると向こうも、目を見開いたような気がした。
──っ!
直視し続けるのが恥ずかしくて、思わず目を逸らしてしまったけど、ドキドキはまだ止まらない。
い、今目が合ったよね。もしかして、気づいてくれた?
『ダメだー、全然気づいてくれないよー。って、芹、どうしたの?』
ドキドキしているとお姉ちゃんが戻ってきて、ハッと我に返る。
そして再び紫苑君を見ると、何事もなかったみたいに集まっている人達との会話に戻っていた。
もしかしたら気づいてくれたかもって思ったけど、気のせいだったのかな。
「芹ちゃーん。また転校生の方見てるー」
「ふえっ? そ、そんなことないよー」
「本当? なんか怪しいなー」
「もう、違うってばー」
紫苑君の事はやっぱり気になるけど、それよりも今は二人をごまかすのに、苦労しそうだよ。
そんな紫苑君が転校して、離れ離れになったのは、お姉ちゃんが事故に遭った少し後のこと。
お姉ちゃんがまだ、幽霊になって現れる前だったから、大切な人といっぺんにサヨナラしなければならなくて、大泣きしたのを覚えてる。
だけど、まさか戻ってくるなんて。
久しぶりに見た紫苑君は、小学生の頃より背が伸びていて、格好よくなっていたけど、穏やかで優しげな雰囲気は相変わらず。
本当はすぐにでも、私のこと覚えてるって、声をかけたかったのだけど。
「ねえねえ、春田君ってどこから来たの?」
「前にこの辺に住んでたって本当?」
休み時間になった途端、始まった転校生への質問タイム。
紫苑君の周りにはバリケードが作られて、とてもあの中に特攻するなんてできない。
それと心なしか、集まっているのは女子が多い気がするんだけど。
「転校早々、すごい人気ね。まあ可愛い顔してるし、仲良くなりたいって気持ちもわかるけど」
「うん。転校生がイケメンって、漫画の中だけじゃなかったんだ」
出遅れた私は紫苑君への接触を諦めて、いつも通り寧々ちゃん瑞穂ちゃんと集まっていた。
「それにしても、まさか本当に転校生が来るなんてね。芹ってばやっぱすごいわ」
「う、うん。自分でもビックリだよ」
なんて返事をしながらも、目はつい紫苑君に向いてしまう。
もしも今、実は彼とは幼馴染みなんだよって言ったら、皆はどんな顔するかな?
だけどそんな、でしゃばるようなマネはできない。だって紫苑君、ビックリするくらい格好良くなってるんだもの。
対して私は地味キャラ。ずいぶんと格差ができちゃってる。
なのに図々しく仲良しアピールしても、きっと馴れ馴れしいって思われちゃうに決まってる。
紫苑君なら大丈夫な気もするけど、問題なのは周りの女子達。
もしもにらまれたらって思うと、怖くて声なんてかけられないよ。
だけどそんな動けずにいる私に、不満を持つ人が。
『せ~り~、どうして会いに行かないのさ~』
ジトーとして目しながら、まるで悪霊みたいなおどろおどろしい声を出すお姉ちゃん。
私は瑞穂ちゃんや寧々ちゃんに聞こえないよう、小声で話しかける。
「しょうがないでしょ。あの中に割って入るなんてできないよ」
『そこは頑張らなきゃ。芹だって本当は、話したいんでしょ』
うっ、それはもちろん。
向こうではどうしてたのとか、元気だったのとか、聞きたい事はたくさんあるもの。
するとお姉ちゃんは、思い付いたみたいに言う。
『そういえばさあ、もしかしたら紫苑君ならあたしのこと、見えないかなあ?』
「何言ってるの、そんなわけ……」
いや、あり得るかも?
私も、ボタだってお姉ちゃんを見ることができるんだし、もしかしたら紫苑君ならって気が、しないでもない。
『よーし、実験してみよう。紫苑くーん!』
教室中に聞こえるような大声。
こんなことをされると悪目立ちしそうで、ヒヤッとしちゃう。
まあ私以外の人には、お姉ちゃんの声は聞こえないんだけどね。
そしてどうやらそれは、紫苑君も同じだったみたい。
大きな声で名前を呼ばれたはずなのに、紫苑君は気づく様子もなく、集まっている人達とお喋りしている。
『反応無しかー。それじゃあ姿は見えるかな?』
お姉ちゃんは紫苑君の前まで行ってピョンピョン跳びはねたけど、またも不発。
もしかしたらって思ったけど、どうやら他の人と同じで、お姉ちゃんのことはわからないみたい。
なんだか残念だなあ。紫苑君なら、もしかしたらって思ったのに。
「せーりー」
「ふぇっ!? な、何寧々ちゃん」
「何じゃないよ。さっきから呼んでるのに、転校生の方ばっかり見て。って、まさか──」
「芹ちゃんひょっとして、春田君のこと……」
揃って目を輝かせる、寧々ちゃんと瑞穂ちゃん。
わー、違う。違うってばー!
「ご、誤解だよ。ただ、本当に勘が当たったからビックリしてたんだってば」
そりゃあ昔は好きだったけど、今の紫苑君と私とじゃ釣り合わない事くらい分かってる。
分不相応な夢は見ないのだ。
だけど言い訳をしながらもう一度紫苑君を見ると、丁度向こうもこっちに頭を向けてきていて……パチッと目が合った。
途端に、トクンと心臓が高鳴る。
すると向こうも、目を見開いたような気がした。
──っ!
直視し続けるのが恥ずかしくて、思わず目を逸らしてしまったけど、ドキドキはまだ止まらない。
い、今目が合ったよね。もしかして、気づいてくれた?
『ダメだー、全然気づいてくれないよー。って、芹、どうしたの?』
ドキドキしているとお姉ちゃんが戻ってきて、ハッと我に返る。
そして再び紫苑君を見ると、何事もなかったみたいに集まっている人達との会話に戻っていた。
もしかしたら気づいてくれたかもって思ったけど、気のせいだったのかな。
「芹ちゃーん。また転校生の方見てるー」
「ふえっ? そ、そんなことないよー」
「本当? なんか怪しいなー」
「もう、違うってばー」
紫苑君の事はやっぱり気になるけど、それよりも今は二人をごまかすのに、苦労しそうだよ。