別れが訪れるその日まで
8 お姉ちゃんが憑依した!?
「どういうことか、きっちり説明してもらおうじゃない」
紫苑君と別れて家に帰って来た私達は、自分達の部屋に行き、さっきの話の続きをする。
正座するお姉ちゃんと、腕を組んで仁王立ちしながら、それを見下ろす私。すぐ横では、ボタが呑気にあくびをしている。
お姉ちゃんは小学生のままの姿だから、何だか中学生の私がいじめてるみたいにも見えるけど、今回は本当に怒ってるんだからね。
「お姉ちゃん。さっき私の口が勝手に動いて、紫苑君に遊びに来ないとか、シュークリーム買ってきてとか言ったんだけど。これってどういうことかなあ?」
『へー、不思議なこともあるもんだねえ……って、そうにらまないでよ。そうです、全部あたしがやりましたー!』
やっぱり、そうでないかと思った。
と言うか、それしか考えられないもの。
『憑依って言うのかな? 漫画なんかで、幽霊が生きた人間の体を乗っとる事ってあるじゃない。たぶんあれだね』
「憑依って、そんなことできたの!?」
『あたしもビックリしたよ。紫苑君を帰しちゃいけないって思いながら芹に触れたら、中に吸い込まれる感じがして、気がついたら体の中に入ってた』
「それじゃあわざとやったんじゃなくて、偶然だったってこと? でもだからって、体を勝手に使って喋るのはちょっと」
いくら双子でも、やっぱり別々の人間。体を使われるのは気持ちのいいものじゃないもの。
『それは悪かったって思ってる。けどあたしだって、紫苑君に伝えたいことがあったんだもの。あのままだと紫苑君、変に気にしたままだったでしょ』
「まあ、それはそうだけど」
私のフリをして喋ってたけど、あの時言ったのは紛れもない、お姉ちゃんの本心。
お姉ちゃんにとっても紫苑君にとっても、伝えられて良かったとは思う。
紫苑君、とってもスッキリした顔してたしね。
『それにおかげで、紫苑君がうちに遊びに来ることになったじゃない』
「それは、良かったのかなあ。紫苑君、迷惑じゃなきゃいいけど」
『平気でしょ。もし嫌なら断ってるもの。芹だって本当は、嬉しいくせにー』
ま、まあちょっぴり嬉しい気持ちが、無いわけじゃないけど。
何だかうまく言いくるめられた気がする。
『それにしても、まさか憑依ができるなんてビックリだよ。これってひょっとして、色んな人に取り憑いて思うがままに操れるってこと?』
「どうだろう。実験してみないと何とも言えないけど……あ、私はもう嫌だよ」
『分かってるって。けどちょっと試してみたい気も……あ、そうだ。ボター』
「ニャ?」
横になっていたボタが、ムクリと体を起こす。
『ちょっとだけ協力してー』
「ニャニャッ!?」
「待って、何をするつもりなの!?」
止めるのも聞かずに、ボタに近づくお姉ちゃん。
そしてその距離がゼロになったかと想うと、吸い込まれるようにボタの中に消えてしまった。
そして。
『おー、すごい。本当にあたし、ボタになってるー!』
ボタの口の動きに合わせて聞こえるのは、お姉ちゃんの声。
呆気に取られる私をよそにボタは……ううん、ボタに取り憑いたお姉ちゃんは、ぐるぐるとその場を回り始める。
ほ、本当に憑依したんだ。
「お、お姉ちゃん、ボタの中にいるの? それじゃあ、元々いたボタはどうなったの!?」
『うーん、ボタもたぶん、体の中にいると思う。何となくそんな気がする』
「普通に喋ってるけど、どうなってるの? 猫に取り憑いたのなら、猫語を喋ったりしないの? お姉ちゃんの姿が見えないから、ボタが人間の言葉を話してるようにしか見えないんだけど!」
『そこはあたしもよくわからないけど……幽霊パワーのおかげかな?』
二本の後ろ足で立って、前足を組んで考える仕草を取る、お姉ちゃんinボタ。
その姿は、すっごく人間っぽい。
『そうだ、もしかしたら今なら、ママにもあたしの声聞こえるかも。ちょっと確かめてくるー』
「えっ? ま、待ってよ」
またも止めるのを聞かずに、部屋を出て行ってしまった。
お姉ちゃんが言うように、ボタが喋ってるように聞こえたら、驚いてひっくり返っちゃうかもしれないのにさ。考えなしなんだから。
だけどすぐに、トテトテと戻ってくる。
『ダメだー。たぶんママには、ニャーニャー言ってるようにしか聞こえないみたい。静かにしてって言われちゃった』
「私に取り憑いた時なら他の人とも話せるけど、動物だとその子の鳴き声になっちゃうのかな? それはそうとお姉ちゃん、もうそろそろ」
『うん、いい加減ボタを解放してあげなきゃね。けど、どうやって出ればいいんだろう?』
戻り方も分からずに、取り憑いちゃってたの!?
だけど心配することはなかった。お姉ちゃんが『戻れー』って言うと、弾き出されるようにボンって、ボタの中から出てきたのだ。
『よかった戻れた。ボタ、ありがとね』
「ニャァー」
「お姉ちゃん。今回は戻れたからいいけどさ。こういうことはあまりやらない方がいいんじゃない。体を使われるのって、気持ちのいいものじゃないもの」
『分かってるよ。けど新発見があったんだもの、試してみたくなるじゃない』
「そういえば前に、ポルターガイストを起こしたこともあったっけ」
あれは小学六年生の時の事。
小学校の中庭で、私が男子にいじめられてたんだけど、お姉ちゃんが落ちていた石を拾って、いじめてきた男子に投げつけてくれたんだっけ。
普段は物に触れないはずなのに。お姉ちゃんいわく、怒ったらパワーが溢れてきて、触れるようになったんだとか。
おかげで男子は、気味悪がって逃げて行ったっけ。
結局、物に触れたのはその時だけ。もしかしたら、感情が昂った時にしかできないのかもって話してた。
まあ普段触れたとしても、ポルターガイストなんて起こしたら皆ビックリしちゃうから、禁じ手にしようって話になったんだけどね。
「今回の憑依も、禁じ手にした方が良いかもね」
『だねー。せっかくの大発見なのに、使えないのはつまらないけど』
無闇に騒ぎを起こしたり、人に迷惑をかけたりしちゃいけないものね。
幽霊にだって、守らなきゃいけないルールはあるのだ。
紫苑君と別れて家に帰って来た私達は、自分達の部屋に行き、さっきの話の続きをする。
正座するお姉ちゃんと、腕を組んで仁王立ちしながら、それを見下ろす私。すぐ横では、ボタが呑気にあくびをしている。
お姉ちゃんは小学生のままの姿だから、何だか中学生の私がいじめてるみたいにも見えるけど、今回は本当に怒ってるんだからね。
「お姉ちゃん。さっき私の口が勝手に動いて、紫苑君に遊びに来ないとか、シュークリーム買ってきてとか言ったんだけど。これってどういうことかなあ?」
『へー、不思議なこともあるもんだねえ……って、そうにらまないでよ。そうです、全部あたしがやりましたー!』
やっぱり、そうでないかと思った。
と言うか、それしか考えられないもの。
『憑依って言うのかな? 漫画なんかで、幽霊が生きた人間の体を乗っとる事ってあるじゃない。たぶんあれだね』
「憑依って、そんなことできたの!?」
『あたしもビックリしたよ。紫苑君を帰しちゃいけないって思いながら芹に触れたら、中に吸い込まれる感じがして、気がついたら体の中に入ってた』
「それじゃあわざとやったんじゃなくて、偶然だったってこと? でもだからって、体を勝手に使って喋るのはちょっと」
いくら双子でも、やっぱり別々の人間。体を使われるのは気持ちのいいものじゃないもの。
『それは悪かったって思ってる。けどあたしだって、紫苑君に伝えたいことがあったんだもの。あのままだと紫苑君、変に気にしたままだったでしょ』
「まあ、それはそうだけど」
私のフリをして喋ってたけど、あの時言ったのは紛れもない、お姉ちゃんの本心。
お姉ちゃんにとっても紫苑君にとっても、伝えられて良かったとは思う。
紫苑君、とってもスッキリした顔してたしね。
『それにおかげで、紫苑君がうちに遊びに来ることになったじゃない』
「それは、良かったのかなあ。紫苑君、迷惑じゃなきゃいいけど」
『平気でしょ。もし嫌なら断ってるもの。芹だって本当は、嬉しいくせにー』
ま、まあちょっぴり嬉しい気持ちが、無いわけじゃないけど。
何だかうまく言いくるめられた気がする。
『それにしても、まさか憑依ができるなんてビックリだよ。これってひょっとして、色んな人に取り憑いて思うがままに操れるってこと?』
「どうだろう。実験してみないと何とも言えないけど……あ、私はもう嫌だよ」
『分かってるって。けどちょっと試してみたい気も……あ、そうだ。ボター』
「ニャ?」
横になっていたボタが、ムクリと体を起こす。
『ちょっとだけ協力してー』
「ニャニャッ!?」
「待って、何をするつもりなの!?」
止めるのも聞かずに、ボタに近づくお姉ちゃん。
そしてその距離がゼロになったかと想うと、吸い込まれるようにボタの中に消えてしまった。
そして。
『おー、すごい。本当にあたし、ボタになってるー!』
ボタの口の動きに合わせて聞こえるのは、お姉ちゃんの声。
呆気に取られる私をよそにボタは……ううん、ボタに取り憑いたお姉ちゃんは、ぐるぐるとその場を回り始める。
ほ、本当に憑依したんだ。
「お、お姉ちゃん、ボタの中にいるの? それじゃあ、元々いたボタはどうなったの!?」
『うーん、ボタもたぶん、体の中にいると思う。何となくそんな気がする』
「普通に喋ってるけど、どうなってるの? 猫に取り憑いたのなら、猫語を喋ったりしないの? お姉ちゃんの姿が見えないから、ボタが人間の言葉を話してるようにしか見えないんだけど!」
『そこはあたしもよくわからないけど……幽霊パワーのおかげかな?』
二本の後ろ足で立って、前足を組んで考える仕草を取る、お姉ちゃんinボタ。
その姿は、すっごく人間っぽい。
『そうだ、もしかしたら今なら、ママにもあたしの声聞こえるかも。ちょっと確かめてくるー』
「えっ? ま、待ってよ」
またも止めるのを聞かずに、部屋を出て行ってしまった。
お姉ちゃんが言うように、ボタが喋ってるように聞こえたら、驚いてひっくり返っちゃうかもしれないのにさ。考えなしなんだから。
だけどすぐに、トテトテと戻ってくる。
『ダメだー。たぶんママには、ニャーニャー言ってるようにしか聞こえないみたい。静かにしてって言われちゃった』
「私に取り憑いた時なら他の人とも話せるけど、動物だとその子の鳴き声になっちゃうのかな? それはそうとお姉ちゃん、もうそろそろ」
『うん、いい加減ボタを解放してあげなきゃね。けど、どうやって出ればいいんだろう?』
戻り方も分からずに、取り憑いちゃってたの!?
だけど心配することはなかった。お姉ちゃんが『戻れー』って言うと、弾き出されるようにボンって、ボタの中から出てきたのだ。
『よかった戻れた。ボタ、ありがとね』
「ニャァー」
「お姉ちゃん。今回は戻れたからいいけどさ。こういうことはあまりやらない方がいいんじゃない。体を使われるのって、気持ちのいいものじゃないもの」
『分かってるよ。けど新発見があったんだもの、試してみたくなるじゃない』
「そういえば前に、ポルターガイストを起こしたこともあったっけ」
あれは小学六年生の時の事。
小学校の中庭で、私が男子にいじめられてたんだけど、お姉ちゃんが落ちていた石を拾って、いじめてきた男子に投げつけてくれたんだっけ。
普段は物に触れないはずなのに。お姉ちゃんいわく、怒ったらパワーが溢れてきて、触れるようになったんだとか。
おかげで男子は、気味悪がって逃げて行ったっけ。
結局、物に触れたのはその時だけ。もしかしたら、感情が昂った時にしかできないのかもって話してた。
まあ普段触れたとしても、ポルターガイストなんて起こしたら皆ビックリしちゃうから、禁じ手にしようって話になったんだけどね。
「今回の憑依も、禁じ手にした方が良いかもね」
『だねー。せっかくの大発見なのに、使えないのはつまらないけど』
無闇に騒ぎを起こしたり、人に迷惑をかけたりしちゃいけないものね。
幽霊にだって、守らなきゃいけないルールはあるのだ。