恋してはいけないエリート御曹司に、契約外の溺愛で抱き満たされました
松重不動産の入るビルエントランスに入ろうとしたところで、すれ違うように彼女が自動ドアの向こうから現れた。
小走りで走っていく姿をなにげなく振り返ると、彼女はビル前の木陰のあるベンチに向かっていった。
そこには、白髪を頭の上でまとめた背の曲がった老人がひとり。
彼女は手にしていたミネラルウォーターのペットボトルの蓋を外し、老人にそれを差し出していた。
さらに、小脇に挟んでいた黒い折り畳み傘を開き、老人の頭の上にかざす。
遠慮し、感謝する老人と、笑顔で寄り添う彼女。
その様子を不思議に思いながらエレベーターを待っていると、追いかけるようにして今の今まで老人と一緒にいた彼女がエレベーターに乗り込んできた。
『すみません』
ぺこりと頭を下げ、操作盤の前に立ち、閉のボタンを押す。
申し訳なさそうに乗り込んできた彼女に『いや……』と反応をして、その流れでつい声をかけていた。