恋してはいけないエリート御曹司に、契約外の溺愛で抱き満たされました
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「はい……いや、でも、もう一度交渉の余地はあるかと──」
高層階から見下すビル群を目に、耳には床を踏み鳴らす音が入ってくる。
その規則的な音は苛ついている心情を露わにし、私の緊張を募らせていく。
ちらりと見上げたその表情は落ち着いた声とは裏腹に、上司への報告をしているとは思えないほど殺気立っていた。見ていることに気づかれないうちに、慌てて目を逸らす。
社内では上司に対してこんな顔を見せることは決してない。
上司へも同僚にも、もちろん後輩にも、誰に対しても温厚で爽やかで、仕事のできる人──それが誰もが知る彼の姿だ。
だから、彼が豹変するなんて信じるはずもない。