恋してはいけないエリート御曹司に、契約外の溺愛で抱き満たされました
冷蔵庫から出した卵を手に持ったまま、湯島くんの姿を目で追いかける。
黙った私が気に食わなかったのか、湯島くんは足を止めこちらを振り返った。
「お前のそういう、平和主義というか、何事もなく穏便に事を済ませようって態度に腹が立つんだよ。なに考えてるかよくわかんねーし、感情とかないわけ? 俺はこんなに苛立ってんだよ」
マシンガンのように言葉を浴びせられ、ますます返す言葉に詰まる。
眉間に皺を寄せあからさまに不機嫌な表情の湯島くんをじっと見つめ、やっと出てきた言葉は「そんなことないよ」だけ。
湯島くんはまた深くため息をついた。
「もうさ、俺出てくから。俺たちの関係ももう終わり」
吐き捨てるように言い、再び私の前を横切って玄関に向かっていく。
なにか声をかけなくてはいけない。そう気持ちを焦らせているうちに、湯島くんは玄関の扉の向こうに消えていった。
え……? 終わっちゃったの……?
けたたましくガチャンと閉まった玄関扉と、遠ざかっていく革靴の足音。
びしゃっと突然足もとが濡れ、ハッと玄関先から視線を戻す。
持っていたはずの卵が手の中からすり抜け、床に落ちて割れていた。