恋してはいけないエリート御曹司に、契約外の溺愛で抱き満たされました
穏やかな寝顔に無意識にホッとする。彼女の精神状態なら、まだまだ悪夢を見たっておかしくはない。
脳裏に蘇るのは、昨日の彼女の怯えたような様子。
目の前で見せられた痴話げんかは、下品で救いようがないものだった。
いや……けんか、とも言い難い。彼女が一方的に罵られる目に余る光景だった。
その場にたまたま鉢合わせ、まったく無関係にもかかわらず、つい口を出しそうになった。
彼女がただひたすら耐え、心を殺しているのがわかったから。
これまでも、そしてこれからも彼女はそうしていくのだと思うと、自らを奮い立たせて男の背を追いかけようとする腕を取って引き留めていた。
ほとんど無意識だったと思う。
なにか、大きな人生の転機があれば、歩む道はきっと変わっていく。
彼女も、そして俺自身も──。
けれど、彼女は『大丈夫』だと言い残し、後方を気にもしない男のあとを追いかけていってしまった。
その後、いつまでも彼女のことが気にかかったのは言うまでもない。
あの場でどうにかつなぎ止めておけばよかったと後悔する一日を送った。