目に視えない私と目が見えない彼
美術室に戻ってくると、大河先輩はぶつぶつと独り言を言っていた。顔をしかめて怒りに歪んだ表情だった。
「・・・・なんだよっ、あいつ。すかしやがって。くそっ、見えないくせに、こんな絵を残しやがって・・・。見えないなら、この絵を俺の作品として出しても・・・・・・バレないんじゃね?」
聞こえてきた言葉は耳を疑う言葉だった。
…だめだよ。
そんなこと、許されるわけがないよ。
「・・・・・いつも、あいつばっかり・・・・・・俺だって・・・・・・っ」
大河先輩は自分と格闘するように考え込むと、ゆっくり顔を挙げた。その顔は、怒りと憎しみに支配されて、まるで獣のような形相だった。
イーゼルに立てかけてあった、キャンバスに手を伸ばす。
だ、だめ ——・・・・・!
「な、なんだこれ、このキャンバス、お、重い。う、動かない・・・・・・」
大河先輩が持ち去ろうとしているキャンバスを必死で掴んで抵抗した。
これは来衣先輩の絵なんだから。
絶対に離さない!
「・・・・・・っ、なんでこんなに・・・・・・重いんだよっ!・・・・・・くそっ!」
ああ!
男性の力には敵わずに、力で負けてしまった。
私の手からキャンバスが奪われてしまった。
「何かに引っ掛かってたのか?
まあ、いい。俺の描いた絵としてコンテストに出してやる」
来衣先輩の絵を無断で横取りされてしまう。
名前を偽って提出されても、目が見えないから、自分で気付くことが出来ない。
このことを知ってるのは私だけ。
私がなんとかしないと——・・・・・。