目に視えない私と目が見えない彼


「おっ、大河、その絵どうしたんだ?」

視えないところで攻防を繰り広げる私たちの前に、ちょうど1人の人物が現れた。


この先生、確か・・・・・・。
よりにもよって、美術部顧問の中尾先生だった。

今一番現れて欲しくない人だった。

なぜなら、大河先輩は美術部顧問の先生に、来衣先輩の作品を自分の作品だと偽り、提出しようとしているからだ。



「中尾先生、あ、お、俺・・・・・・」


まだ少し迷いがあるのか、大河先輩の表情は曇っていて俯いている。

そうだよ、だめだよ、大河先輩がしようとしていることは盗用でダメなことなんだよ。

本当は直接怒りたいし、説得していのに、それができなくて、やるせなくて苦しい。

「おお、それ、コンテストに出すやつか?
提出期限は明日までだぞ?どれ、見せてみろ、」

中尾先生は、半ば強引にキャンバスを手に取り、絵を眺めている。

中尾先生が観ている絵は、来衣先輩が描いたものだ。

今思えば私が来衣先輩と初めて会ったとき、描いていたこの絵は来衣先輩の暗闇を表現していたのかもしれない。

今もう一度観ても、引き込まれる。まるで絵に飲まれてしまいそうな、そんな魅力のある絵だった。
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