目に視えない私と目が見えない彼
ドドドドと、その音はどんどん近づいてきて、何かがこっちに向かってくる音がする。猛獣が全速力で向かってくるような、そんな激しい音が鳴り響く。
「っち」
来衣先輩にも鳴り響く音は届いていたようで、小さく舌打ちをした。
今舌打ちした?なんで?
「…最上!……はあ、待たせた、な。はあ」
肩を上下揺らして、息を切らして美術室のドアを開けたのは、大河先輩だった。呼吸はまだ乱れていて、急いできてくれたのがすぐに分かった。
「…なんだよ、今、いいところだったのに」
「いいところだったのか、どれどれ、おお、いい感じじゃねえか!」
「お前、戻ってくんなよ…良い雰囲気、邪魔すんな」
「確かに、いい雰囲気だなあ。うん、うん。
…って、邪魔ってひでえな。手伝うために全速力で走ってきたんだぜ?」
それぞれの意味する言葉は、おそらく違うのに会話が成り立っていて、なんとも不思議だった。
来衣先輩は、私との会話を邪魔されたと思っている。
大河先輩は、私のことは視えていないので、絵を覗きながら目の前の絵のことだと思って話している。
すれ違いながらも成立している会話に、私は会話に参加できないので気配を消して見守った。