目に視えない私と目が見えない彼
「…そうね、でも…」
楓さんは私に視線を向けたまま言葉を詰まらせていた。申し訳なさそうな表情に嫌な予感が背筋を冷たく流れる。
「・・・・・・幸せそうに恋なんてしちゃって、絶対叶うはずがない恋なのに…」
「ちょっと、柊!」
『叶うはずがない恋』
その言葉がぐさりと胸に刺さった。
初めて好きという感情が知れて浮かれてしまっていた。
そうだ、私はもう死んでるんだから、恋なんてする資格ないのに。
浮かれていた私の心に、柊の言葉が重くのしかかる。
「俺たちの記憶はなくなるんだよ、だから、好きになったって、その気持ちだって消えてしまうんだ」
「え、記憶がなくなる?」
「そうね、生まれ変わるときは、もちろん今の記憶はなくなるのよ。
言わなくてごめんね。素直な気持ちを邪魔したくなかったのよね」
来衣先輩を好きだと想うこのあたたかい気持ちが消えてしまう。考えたら当然のことなのに、頭を殴られたように衝撃が走った。
「・・・・・・あの!それは生前の自分に戻った場合も、消えてしまいますか?」
「・・・・・・どうかしら?今まで誰もいなかったから、事例がないのよ」
「そ、そうですか」
淡い期待を抱いてみたけど、無意味だった。
この気持ちがなくなるなんて・・・・・いやだな。