目に視えない私と目が見えない彼
雨の降る音があってよかった。その雑音と雨の雫に私の涙も解けていく。
「…迷惑だよな。目が見えない奴に好かれても」
「…っち、ちが」
違う。来衣先輩は悪くない。そう言おうとして言葉を止めた。
どうしたって、私は来衣先輩を傷つけてしまうんだ。
守護対象者以外を助けたり、関わったりしてはだめなのに。
ルール違反をした私がすべて悪いんだ。
「…ごめんなさい」
今の私の精一杯の言葉だった。
「未蘭、告白もしねえでふられちまったけど、出会ってくれてありがとな。助けてくれてありがとな」
「っ……、う…」
私の涙腺はすでに崩壊していた。嗚咽が漏れないように、唇をぎゅっと噛みしめて声を押し殺した。
聴覚に敏感な来衣先輩は少しでも嗚咽が漏れたら、泣いてることに気づくだろう。
本当は伝えたい言葉は山ほどあるのに、その言葉を伝えることはできない。今なにか言おうと口を開いたら、泣いてることを必死で隠しているのに、震える声で彼にばれてしまうから。
伝えたい言葉も雨に紛れて流れていく。
「……さよっ、なら」
必死に絞り出した声は震えていたかもしれない。振り返らずに歩き出した。来衣先輩を見てしまったら、きっと私の決意なんて簡単に崩れてしまいそうだったから。