目に視えない私と目が見えない彼
「今日は、カレーよ!」

私はリビングテーブルに座って来衣先輩とカレーが到着するのを待っていた。
カレーのスパイスの香りが嗅覚を刺激する。
…おいしそうな匂い。生前はお母さんの作るカレーが大好きだった。スパイスの香りに胸が躍る。

コトン、来衣先輩の目の前には大盛りのカレーが差し出された。

コトン、私の目の前にもお皿が差し出される。私にも出してくれるんだ。嬉しさが込み上げる。

「…ありがとうございま……え、」

自分の目を疑って思わず二度見した。

私の目の前のお皿には、カレーではなく……
盛り塩が三角錐型に高々と盛られていた。
盛り塩を目の前に私は固まることしかできなかった。

こ、これは、盛り塩!?
鼻につく香りにハッとした、香ばしいスパイスの匂いと、もう一つ嫌な臭いが鼻の奥を刺激する。部屋の中を見渡すと、リビングのあちこちにお香が炊いてある。

もしかして、盛り塩も、お香も、悪霊除け!?

おそるおそるお母さんに視線を向けると、口角をあげてニッコリとほほ笑んでいた。しかし目の奥は笑っていない。

わかってもらえたと思っていたら、全く歓迎されていなかった。その意図を示す目の前の盛り塩に視線を移すと、背筋が凍るように身震いがした。
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