目に視えない私と目が見えない彼
「来衣先輩、あの、私の分なんだけど・・・・・」

「男に見栄を張らせてよ」

柔らかな笑顔を浮かべた。その笑顔に申し訳ない気持ちが少し減ったような気がする。

「ポップコーンも買おうぜ!未蘭は塩派?キャラメル派?」

「・・・・・・私は、塩派かな」

「なんか、意外。ひたすら甘いの好きそうなのにな」

「そ、そうですか?」

売店でポップコーンと飲み物を買った。塩気とキャラメルの甘い香りに、どうしてもテンションが上がってしまう。死んでしまって、映画館に来れるなんて思ってもいなかった。まるで映画館に初めて来たときのように、心は弾んでいる。普通を装いつつも、顔はニヤケていたと思う。

心が弾むまま、シアタールームに入った。音声ガイド付きのイヤホンジャックがある座席は数が少く、普通の映画館よりも狭かった。

3人分の座席を買ったので、私の分の座席もある。
周りから見ればそこに私はいなくて、空席が1つあるだけに見える。

みんなにとっての空席が来衣先輩と杏子ちゃんにとっては、私の席。
自分の分の席があるだけで、こんなに嬉しい気持ちになるなんて。

座れるかドキドキしながらゆっくりとシートに腰を下ろした。

す、座れた!生前のように映画館のイスに座れたことが嬉しかった。懐かしくてシートをなぞった。


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