目に視えない私と目が見えない彼
「もう、映画館で映画を見ることなんて、生まれ変わるまで無理だと思ってた」

「生まれ変わり?」

「……っあ、いや、えっと、っ、間違えた。ははっ、」

興奮して思わず漏れてしまった。誤魔化す方法を知らなくて、笑ってごまかすことしかできなかった。

上映が始まる時間になると、映画館の天井の照明が落とされて薄暗くなった。
暗いけど……来衣先輩、大丈夫かな。

隣の席の座席のホルダーに置かれた来衣先輩の手に視線を向ける。

この日は楽しくて浮かれていたのかもしれない。無意識のうちに、彼の手をそっと握っていた。

手の中に暖かい温もりを感じて、自分のしたことに遅れて気付く。
私、なにしてるんだろう?!

自らしたことなのに、自分が一番驚いた。
ち、ちがうの。違くないけど。…来衣先輩のことが心配で手を握っただけで、私の下心なんてなくて。…いや、ちょっと触れたいな、とは思ったりしたけど。

誰に責められているわけでもないのに、心の中で必死に弁解をした。
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