目に視えない私と目が見えない彼
「未蘭さんって生前、真面目だったでしょ?今も楽しんじゃっていいのかなって、気にしちゃってない?」

伏し目がちな私に気付いた杏子ちゃんは駆け寄ってきてくれた。言っていることは図星で、まさに私が思っていたことだった。

「なんで思ってることわかるの?来衣先輩と杏子ちゃんと過ごす時間が楽しくて…私が楽しむ権利なんてないのに…」

「未蘭さん側のルールと都合はわからないけど、杏子とお兄ちゃんも未蘭さんと過ごせて楽しいし、その楽しい気持ちが未蘭さんも同じだったらいいな、と思うんだ」

「も、もちろん!すっごく楽しいよ。楽しくて申し訳ないくらいなの」

「今日という日は、もう来ないんだから"今"を楽しまないと!それに、お兄ちゃんだって、未蘭さんが心から楽しんでなかったら気付くと思うよ?」

杏子の言葉は幽霊の私の心にすごく沁みた。

楽しんでも、楽しまなくても今日という日に終わりはきてしまう。


「・・・・・楽しんじゃっていい、のかな?いや、でも、やっぱりそんな権利ないよね…」

「いいの!権利なら、杏子が与えます!」

なんだか、杏子ちゃんの言い方がかわいらしくて「ふふっ」と笑ってしまった。私はこの時間を楽しむことにした。良いことではないだろう
だけど、"今"がすごく楽しくて同じ日がもう来ないことを知っているから、どうしたって楽しいと思ってしまうんだ。
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