目に視えない私と目が見えない彼
食べれない私がお店を決めてしまった、と後になって気付いた。ただ、この匂いも雰囲気も懐かしさで胸がいっぱいになった。そして、ありふれた会話をできることを噛み締めた。私はこの会話ができるだけで充分幸せだった。




お昼時を少し過ぎた店内は、音がぽつぽつと聞こえてくるくらいで、騒がしさがなく静かだった。

「何名様ですか?」

「三人です」

「……あとから来られるんですね。こちらへどうぞ」

店員さんには、来衣先輩と杏子ちゃんしか見えていないので当然の反応だった。来衣先輩、不思議に思ったかな。ちらりと彼の顔を覗くと、不思議そうにする様子はなかったので心の中でほっとした。

この場に及んで、幽霊なことがばれたくないなんて我ながら不甲斐ない。
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