目に視えない私と目が見えない彼

「———危ないっ!!」


私は咄嗟のことで、思わず声を出してしまった。対象者の若菜さんは私の声が聞こえたようで、驚いて、進めていた足を止めて、立ち止まった。俯いていた顔を上げる。


ガタンッ、
辺りにアスファルトと金属音の衝撃の音が鳴り響く。


立ち止まったおかげで、2人が衝突する時間がずれて、目の前でバランスを崩した自転車は倒れた。


立ち止まったことで、衝突することはギリギリで回避できた。立ち止まらなかったら、完全にぶつかって怪我をしていただろう。


・・・・・・怪我しなくて、よかった。

怪我の危険を助けられたから、感謝とかされたりするかなあ。「誰だかわからないけど、教えてくれてありがとう」とか、言われたりするのかな。


若菜さんを助けられたことが嬉しくて、淡い期待に胸を膨らませる。



「・・・・・・え、なに?誰もいないところから声が聞こえたっ?・・・こわっ、怖いんですけどっ!!」


感謝されるどころか、思いっきり怖がられてしまった。

若菜さんは、私が声を上げた方向に視線を向けたが、誰もいないので顔に恐怖が表われていた。


若菜さんには、私の姿が視えていない。


彼女からすれば、誰もいるはずのないところから声だけが聞こえた、ということだ。


・・・・・・怖がるのも無理はないかあ、
瞳を揺らして、今にも泣き出しそうな顔をしてるので、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


怖がらせてごめんね。怖がらせるつもりなんてなくて、ただ助けたかったの。


声を出して伝えられないので、心の中で問いかけた。



「やっちゃったね・・・・・・」

柊は後ろから気まずそうな顔でポツリと呟いた。焦ってて彼が近くにいることを忘れていた。あの場合はどうすればいいか、柊に聞けばよかった。

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